一年間の『ありがとう』

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メールで送られた原作文をそのまま掲載しています。(スレへの投稿と僅かな違いはありますが、内容は同じです。)
二人の出会いは去年の四月。
桜が満開の季節に俺たちは同じ大学に入学した。
大学は全寮制で校舎と直結、休日でもない限り外界との交流はほぼ無いに等しい。
なので、この学校の生徒はほぼ全員が携帯を持っているという状況だった。
そんな学校で俺はマミさん(もちろん偽名)と出会った。

正式な初対面は入学二日目、その日は初の新入生顔合わせ。
俺はその会場である教室で迷っていた。
教室の入り口に座席の位置は書いてあったので大体の検討はつけて入室したが…

「なんだこれ!?」

予想以上に広い教室と不揃いに並んだ机の列に俺は一瞬で混乱におちた。
大体の検討をつけた座席の位置はもともと曖昧にしか覚えていないため、

「確か12列目の…前から…」

みたいな感じでフラフラしながら教室の一番前、つまり黒板の前を行ったり来たりしていた。
戻ってもう一度確認してもいいけど、変なプライドがそれを許さない。

「ここで戻って確認したらカッコ悪いなぁ」
と考えていた。
実際、迷ってウロウロする方がカッコ悪いと今更ながらに思う。
そんなこんなで、ウロウロすること4、5分…(そんなにウロウロするなよ俺…)

その時…



「席わからないの?」



一人の女性が声をかけてきた。白い肌が透けるように綺麗な女性だった。

もちろん、この人こそマミさんだ。
俺はマミさんに席を教えてもらい、ようやく腰をおろすことができた(マミさんは座席表を持っていた)。

これが俺とマミさんの出会いだった、多分覚えてるのは俺の方だけだと思う。

それから数日後の或る休日。
グループ内の女の子の誕生会が開かれた。
主役の女の子(以下タエコ)とその子の同部屋の女の子(以下サエコ)を残した全員が会場である教室に集まった。
誕生会の段取りが説明される。

全員が会場に集まる。

合図を送る係がサエコにメールを送り合図する。

サエコはタエコに「グループで話し合いがあるらしい」と伝え、会場に誘導する。

その間、会場にいる全員が会場のどこかに隠れる。

タエコが来たところを見計らって全員が飛び出しクラッカーの嵐。

誕生会開催!!

という感じだ。
そして、全員が集まったのを確認し、合図であるメールを送る。
それを確認し、全員が思い思いの場所に隠れ始めた。
もちろん、俺も隠れる場所を探し始めた。


あの掃除箱の中がいいか…


はたまた無難に机の下か…


意表をついて入り口横か…


いや、それはないな。


なんて考えつつ、結局机の下に隠れることにした。

どこの机に隠れるのがいいか…

やはりここは入り口から死角になる机の下しかない!!
そう思い机の下に飛込んだ。










一瞬の沈黙。





マミさんと目があった。


どうやら俺と同じことを考えてたらしい。すでに俺の隠れようとした机の下に隠れていた。


俺「隣、いいすか?」


マミ「早く隠れなよ♪」


俺「あ、失礼します」


俺はマミさんの隣で主役の登場を待つことにした。










…遅い。どうやら寮から会場までの時間を考えていなかったらしい。


マミ「ドキドキするね」


俺「かなり」


マミさんと再び目が合う。
はい、ドキドキしてます。(あなたとは違う理由で…)

笑った時に口許から覗いた八重歯と、一重まぶたのつけマツゲがとても可愛く見えた。

2日前と雰囲気が全然違う。

2日前はオールバックで髪を後ろで結んでたのに、今日はストレートで長い黒髪を全部下ろしてるんですね。すごい色気があるんですけど…

なんて、マミさんに語りかける妄想を体育座りの俺は机の下で繰り広げていた。


そうこうしてるうちに入り口から物音が…


来た!!


会場内に走る緊張感(たぶん)…


誰が最初に飛び出すかの探りあい(たぶん)…


先陣をきったのはグループの男子の一人。彼が会場の電気をつけた(最初は電気を消していた)!!

タエコ「えっ!?」

それを合図に全員が飛び出しクラッカーを鳴らす。
もちろん、俺とマミさんも飛び出す。





あれ?主役どこ?

なんと、タエコは俺とマミさんの位置から結構離れた場所で呆然としながら、クラッカーのシャワーを浴びていた。


俺・マミ「遠っ!!」


走って駆け寄り遅めのクラッカー。
そして、みんなから祝福の声と拍手。

「おめでとう」
「誕生日おめでとう」

見ず知らずの女の子の誕生会。
少し変な気もしたけど、なぜかみんなすぐに打ち解けられた気がする。

誕生会はもちろん大盛り上がり、話は弾み全員の自己紹介タイム。

最初は男子から、みんな気をきかせてギャグを織り混ぜ……ることもなく自己紹介をしていく。

俺はこう自己紹介した。

俺「大地(偽名)です、気軽に大地って呼んで下さい、よろしく」
無難な挨拶

間違いもなければ、盛り上がりもない。
まぁ、初対面なんてこんなもんか…
そんなギャグを言う勇気は俺にはないよ…

男子の自己紹介が一通り終わると、次は女子の自己紹介。
一番最初はもちろん主役のタエコ、少し田舎くささが残るあどけない少女…といったところか、ちょっとかわいい。
二番目はマミさん。
「マミです、よろしくお願いします」
と、こちらも無難な挨拶。
こういうのは女の子は苦手なのか?みんな照れながら自己紹介してた。
女子も全員自己紹介が終わり、トークタイム開始。
もちろん俺はマミさんに話しかける。

俺「マミさんてさ、すごい大人っぽいよね、友達とかに『姉さん』て呼ばれたりしない?」

マミ「ん〜、『姉ちゃん』て呼ばれたりするよ♪」

俺「じゃあ、俺『姉ちゃん』て呼ぶわ」

マミ「いいよ!じゃあ、あたしは『だいちゃん』て呼ぶね♪」



またあの笑顔。
笑うとすごく子供っぽくなる、「無邪気」って言葉が一番ピッタリな笑顔。



その後、誕生会は盛り上がりの中閉会し、解散となった。

この日を境に、俺はマミさんを『姉ちゃん』と呼ぶようになり、マミさんは俺のことを『だいちゃん』と呼ぶようになった。

翌日から学校の授業が開始する。
教室に行く前に食堂に寄り朝食をとる。他の生徒も大勢いる。俺は入学してから仲良くなった友達数人と一緒に食べていた。
ふと、目の前をマミさんが通りかかる。
俺には気付いてない様子…

俺「姉ちゃん!!」
俺は手を振る。

マミ「あ、だいちゃん、おはよう♪」

あぁ、その笑顔が大好きなんですよ。
今日の髪型はオールバック…あ、前髪少しだけ垂らしてる。
なるほど、プライベートじゃないときは基本的にその髪型なんだな。

それからも見かける度、目が合う度、俺とマミさんは挨拶を交した。
そんなやりとりを一週間ほど続けていたある日、俺はあることに気付いた。


メールアドレス知らない…


そういえば、なんで誕生会で聞かなかったんだと少し後悔した。
翌日から土日でマミさんに会う機会がなくなってしまう。
これはアドレスを聞く以外に道はない!!
「思い立ったが吉日生活」な俺。
授業の合間の休み時間にマミさんに聞きにいく。
内心ビビってたけど、それを悟られないよう余裕の表情を作りながら、マミさんのそばに行く。

俺「ねぇ、姉ちゃんのアドレス教えて!!」

マミ「え?いいよ♪あ、でも今携帯持ってないから…リーダーに聞いて!」

マミさんはグループのリーダー(以降こう呼ぼう)を指さす。グループのリーダーなのだから、もちろんグループの全員の連絡先を知っている。

俺「わかった、アドレス聞いたら速攻でメールするから、待ってて!!」

マミ「うん、ありがと♪」


その夜、俺はすぐにリーダーにアドレスを教えてもらいにいった。

俺「リーダー!!マミさんのアドレス教えてください。」

リーダー「いいよぉ、ちょっと待っててね」

携帯をいじりだすリーダー。
緊張してドキドキな俺。
リーダーに緊張してどうするんだ…

リーダー「あったあった、ほら写しなぁ」

俺「あ、ありがとうございます!」

リーダーに携帯を借りてマミさんのアドレスを自分の携帯に入れる。
名前に誕生日とずいぶんシンプルなアドレス。女の子にしては珍しい…なんて思いつつ、あることに気付いた。



俺と誕生日が1日しか違わない!!



つまり、俺の誕生日の翌日がマミさんの誕生日だったのだ。
同じではないにしろ、ものすごい偶然だ。
しかも、俺のアドレスも名前に誕生日とシンプルなアドレスだった。
もちろん、二人のアドレスは似通ったものになってる。
俺は一人で運命を感じつつマミさんのアドレスを携帯に入れ終わり、リーダーに携帯を返した。


リーダー「マミさん狙ってるの?」

俺「いやいや、そんなんじゃないっすよ」

リーダー「マミさん彼氏いるんだよ」

俺「マジですか」

ショック。
平静を装いつつ、内心ガッカリ。
いや、今は落ち込んでるよりもマミさんとメールしよう。
リーダーに礼をし、自室に帰ってメールを作成した。


「大地だよ、わかる?約束通りメールしたよ、これからよろしくね」

確かこんな内容のメールだったハズ。

それから一時間ほどしてマミさんから返事が来た。
この一時間がやたら長く感じるんですよね…

マミ「遅くなってゴメンね、お風呂入ってたよ♪こちらこそよろしく」

お風呂…
こういう時少し想像(妄想?)してしまう俺は変ですか?
その日はお互いのことを少し話しながら、すぐにメールは終わった。


翌日からはマミさんとメールでいろんな話をした。
好きなもの、嫌いなもの、趣味や特技、家族のことや友人のこと、お互いの恋愛経歴や好みのタイプ、とにかくいろんなことを話した。
マミさんが日本舞踊ができるのは少し意外だった。
そして、話はお互いのメールアドレスの話になる。

マミ「そういえば、だいちゃんもアドレス名前と誕生日なんだね、あたしと同じだ♪」

俺「高校の時からだからもう何年もこのアドレスだよ」

マミ「しかも誕生日一日違いじゃない?何か運命感じるね♪」

えぇ、俺も感じてましたとも!!
正確にはマミさんが一つ年上だから、マミさんの一才の誕生日の前日に俺が産まれたことになる。
それでもこの偶然は俺にとってすごく嬉しいものだった。
きっとマミさんもそう思ってくれていたハズだ。

四月某日。
今日はマミさんと初デート。
メールで話をしていて、お互いカラオケが好きだということがわかり、デートの約束をしたのだ。
デートの場所は寮の近くにあるカラオケハウス。
歩いて行ける距離なので、二人で並んで歩きながら、普段どんな曲歌うの?とかありきたりな会話を交わす。
それだけでも楽しくてしょうがない。
マミさんがいろんな話をしてくれて、俺は横で聞きながらたまに相づちを打つだけ。
それが二人のペースだった。
お互いこの頃には一緒にいることで緊張もしなくなっていた。

そして歩くこと10分、目的地のカラオケハウスに到着。


カラオケに入ると誰が一番最初に歌うか探りあいが始まりませんか?もちろん、この時も同じことが起こりました。

俺「姉ちゃん、何か歌ってよ」

マミ「えっ!!だいちゃん歌いなよ、今日はあたしだいちゃんの歌聴きにきたんだからね♪」

そうですか、そうなんですか、その言葉で僕はもうノックアウトですよ、簡単に負けてしまうんですよ。

俺「わかったよ、でも俺バラードしか歌えないから、盛り上がらないけどいいの?」

マミ「いいよ、あたしバラード好きだもん♪」

あなたは元気な歌が一番似合いますけどね、ってまた頭の中でマミさんに語りかける…
なかなか口にできない気持ちってありますよね…
という訳で、俺は5分くらいカラオケの本とにらめっこしていた。


俺が一番最初に選んだ曲はTUBEの「虹になりたい」。昔やってた「未来日記(覚えてる人いるのかな?)」が大好きで、この曲は結構お気に入りなのだ。

マミさんの前で初めて歌う歌。
テーブル越しに向かい合わせで座っているマミさんに、歌ってる顔を見られるのが恥ずかしくてずっとテレビ(モニター?)を見ながら歌っていた。

そして、歌い終わると俺は恐る恐るマミさんの方に目をやる。




…(ドキドキ)




あれ?反応無し?はずしたかな?




…(ドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキドキ)




マミ「上手!!だいちゃんそんなにうまかったの!?あたし感動したよ、もっと歌って!!」


その間(ま)はさすがに緊張しますから…
マミさんは笑顔だったが、いつもの無邪気な笑顔とは違って、大人っぽくて、少し色っぽい笑顔だった。
しかもちょっと瞳がうるんでるじゃないですか…


「涙は女の武器」というけれど、こんな使い方もあるのかと俺は思った。この武器はある意味凶器だった。
なぜなら、俺は続けて歌うしか道はなくなったからである。
ここで歌わなければ男が廃る。
というより、この状況で歌うのをやめる男は男じゃない(男性の方々ならわかってくれますよね?)。
俺はマミさんの凶器に見事に振り回された。

そして、その後も俺は必死でバラードを歌い続けた。


途中、俺は大事なことに気付いた。
部屋のテーブルが大きくて、向かい合わせに座っているマミさんとの距離が大きい…
ここは、マミさんを隣に呼ぶしかない。
幸い雰囲気もいい感じだ。
よし、行くぞ!!


俺「ねぇ、そこ遠いからさ、隣おいでよ」
よし、噛まずに言えた…


マミ「うん…」


少し照れた感じで俺の隣まで来て座る。
よく言った俺!!まさに自分で自分を褒めてあげたい瞬間だった。

そして、カラオケは続行。
俺は声が枯れるまで歌う覚悟で歌い続ける。
バラードしか歌わないからムードも良し。










ふと、手に温もりを感じる。









手つないできましたよ。




俺、少し動揺。
歌ってる途中だから何も反応できない。
とりあえず握り返す俺。
指と指を絡ませて手をつなぐ。





…これって恋人同士のつなぎかたじゃないですか!?




いや落ち着け、今はこの歌を歌い終えるのが先決だ!!

既にパニック状態の俺。


やっと歌い終わりマミさんの方を見る。
振り返り俺の目を見るマミさん。




そんなうるんだ目で見ないでください…




沈黙を破り、マミさんが口を開く。


マミ「ごめんね、手ぇ汗ビッショリで」


確かに二人とも短い時間の間にものすごい汗をかいている。


俺「いや、俺体温高くてさ。すぐ汗かくんだ」


マミ「あたしも体温高いんだよね♪」


そう言ってマミさんは手を離した。
まだつないでいたかったけど、マミさんから離されたら仕方がない。
俺はまだ汗ばんだ手を少し握ってマミさんの手の温もりとお互いの緊張をかみしめた。

その後沈黙するのが嫌だったので俺から話を切り出す。


俺「そろそろ姉ちゃんも何か歌ってよ」


マミ「えぇ〜、だいちゃんうまいからだいちゃんの前で歌うの恥ずかしいよ」


俺「そんなの気にしないから。俺は姉ちゃんの歌が聴きたいのさ」


マミ「えぇ〜、あたしヘタだもん」


俺「いいからさ、ね?」


マミ「じゃあ、わかった」


そう言ってマミさんは曲を探し出した。


マミ「ムード壊してもいいの?」


俺「いいよいいよ、そんなこと気にしないでさ」


マミさんが選んだ曲はJUDY AND MARY(綴り間違ってたらスマン)の「over drive」

マミ「これ、あたしのテーマソングなの♪」

俺「そうなの?なんで?」


マミ「だって、元気な曲でしょ♪あたしにピッタリじゃない?」


俺「あぁ、なるほど」


確かに元気なマミさんにはお似合いな曲だった。前にも書いたように俺もマミさんには元気な曲がお似合いだと思っていた。

♪♪〜♪♪〜♪♪〜〜
短いイントロの後すぐに歌が始まる(この曲知ってる人ならわかってくれるハズ)







う〜ん…







うまいじゃん!!


当時、俺の女友達でここまで歌える人はいなかった。俺は少し感動したのを覚えている。
うまいのもそうだが、それ以上に綺麗な声をしているのが印象深かった。
抽象的に言うと、すごく透明な声と言うのだろうか。よく伸びて体の深いところまで入り込んでくるような感じがする。
たぶん、2時間くらい聞いていても全然飽きないだろう。

そんなことを考えてる間に歌が終わった。


俺「普通にうまいっしょ、ヘタじゃないよ」

マミ「だいちゃんに比べたらヘタだよぉ」


俺「そんなことないよ」


こんな会話をしながらカラオケは終了し帰宅することにした。
俺は少しずつ確実にマミさんとの距離が縮まっていることに喜びを感じていた。


その日の夜、俺たちはいつものようにメールをしながら今日のデートについて語り合った。
最初はやっぱりお互いがお互いを褒め合うことから始まる。しばらくするとこんな話題になった。

マミ「ねぇ、何か二人で歌える歌つくろうよ♪」

俺「デュエットするってこと?何かあるかな?」

マミ「ほら、チェルシーの歌歌ってる人とか、名前浮かばない…」

俺「ケミストリー?あれ両方男じゃん。」

マミ「じゃあ、男と女でデュエットできる歌ってある?」


実はこの話を持ち出された瞬間に思いついていた。
HYの『AM11:00』
マミさんがHYが好きということも知っていたし、男と女でデュエットもできる。
これしかないと思っていた。


俺「じゃあさ、HYなんかどう?あれなら二人で歌えるっしょ」

マミ「いいよ、あたしHY好きだもん♪」

俺「決定ね、曲は『AM11:00』で。この曲しか知らないからさ(笑)」

マミ「わかった、あたし練習しとくね♪今度カラオケ行ったら一緒に歌おうね♪」

俺「オッケイ、俺も練習しとくわ」


こうして、二人の歌はHYの「AM11:00」に決まり、俺は何度も何度も聴いて覚えていった。
その後もメールは寝るまで続いた。
春の陽気に心が弾んだ。

五月初旬。
GW最終日の今日、GW中に地元に帰省していた生徒達が寮に帰ってくる。
もちろん俺やマミさんも同じだ。
実はGW中俺はマミさんとのメールを極力控えていた。
理由はもちろん彼氏の存在だ。
やはり、どこかやましい気持ちがあったのは確かだ。
もし、俺とのメールでマミさんが彼氏と別れてしまったら、マミさんは落ち込んでしまうだろう。
俺だって、マミさんに嫌われてしまうかもしれない。
それだけはどうしても避けたかった。


そして今日、久しぶりにマミさんに会える。

地元から戻ってきたグループの仲間達がお土産を持ち寄ってくる。
それを男子は女子に渡す分を、女子は男子に渡す分を交換するため集まる。
チャンスはその時だ。
時間は少ないが、話ができるハズだ。
マミさんがGWに何をしたのかとか、俺がGW中に何をしたのかとか。
全部なんか話せないが俺はマミさんの笑顔が見れるだけでも十分だと思っていた。

それから、マミさんにお土産も買ってきたんだ。
以前マミさんと話してた時にマミさんが赤い色が好きだってこと、マミさんの赤い携帯にストラップがついてないってこと、覚えていたから。

だから、地元のアクセサリーショップとか小物屋を歩き回って作った、手先が無器用な割に良くできた携帯ストラップ。
赤いハートのストラップの周りに小さな星のアクセントを入れてある。
マミさんなら気に入ってくれると思う。
マミさんなら何でも受け入れてくれる気がしたから。

そして、お土産交換の時がきた。
女子達の中にマミさんを発見。
話しかけようとするが違う男子と話していてなかなかタイミングがつかめない。
なんか、マミさんはどこかわざと俺と話すのを避けようとしてるみたいだ。
目線もわざとそらされてるのか?
そして、お土産の交換が終了。
…あれ?これで終わり?

待ってよ、まだ「久しぶり」すら言ってない!!
いっぱい話たいことがある。
いっぱい聞きたいことがある。
ストラップだって、渡したいのに…

去り際、マミさんは俺の方を振り返り笑顔を見せることもなく、少し寂しそうな顔をして去って行った。


その夜、俺はマミさんにメールした。

俺「何か、俺のこと避けてない?俺なんかした?」

少し時間をおいてマミさんから返事がくる。
マミ「だいちゃんは何もしてないよ。悪いのはあたしなんだ、彼氏いるのにだいちゃんと仲良くしたから」

大体こんな内容のメール。
俺は頭から血の気がひいていくのがわかった。同時に強い眩暈。
当然の報いか。
マミさんに彼氏がいるのは知っていた。
知っていてマミさんに近付いたのだから。
それでも俺は納得できない。
納得できないけど、どうすることもできなかった。

一週間後。
今日から宿泊学習。
ある山中の宿泊施設に泊まり込み、生徒の交流を深めるのが目的だ。
俺とマミさんはまだギクシャクしたまま当日を迎えていた。
行きのバスも、昼食の時も、夕食の時だって俺たちはお互いを意識しながら、関わりをもてずにいた。
この一週間で何か変わったかというと、何も変わってない。

ただ、俺はマミさんにストラップを渡した。
また、仲良くしてほしくて、ただそれだけでいいと思っていた。
でも、結局何も変わらなかった。
俺たちは、お互いに避けあいながら夜を迎えた。

今夜はキャンプファイヤー。
暗闇に浮かぶ炎を囲んで、歌ったり、ゲームをしたり、踊ったりする。
夜の雰囲気がそうさせるのか、キャンプファイアーの炎がそうさせるのかは定かではなかったが、やっぱりみんなテンションが高い。
こんな素敵な夜は何か素敵なことが起こりそうで、素敵なことが起きてほしくて、そんな気持ちが俺を後押ししてくれた。
俺はどうしてもマミさんと仲直りがしたかった。
だから、一世一代の賭けに出たんだ(そんな大それたものじゃないけど…)
キャンプファイアー最後の演目はフォークダンス。

俺は友達と踊るマミさんのもとに行き、いつものようにビビった気持ちを隠すため余裕の表情で声をかけた。

俺「少し話しようよ」


マミ「うん…」


マミさんの表情が曇る。
やっぱりマミさんに嫌われてしまったんだろうか?
心臓がきつく締まる感じがする。
もう、伝えたいことはひとつしかない。
今はそれを素直に伝えるだけだ。
人の輪から少しはずれたところで、マミさんの顔を見る。
俺は自分のありったけの勇気を振り絞る。


俺「俺、姉ちゃんと仲直りしたいんだ。姉ちゃんが好きだから、そばにいてほしいんだ」


マミさんは少しうつ向いた。


マミ「うん…うん。」


しばしの沈黙。
そして、マミさんが口を開く。


マミ「ごめんね、だいちゃんの気持ちわかってるのに」


俺の目をまっすぐ見据えてくるその目には、涙がたまっていた。



「ごめんね」の意味は聞かなくてもわかった。
涙目のマミさんの顔が優しく微笑んでいたから…。



マミさんも俺と同じ気持ちでいてくれた。
俺は嬉しいとかそういう気持ちもあったけど、なぜかすごく穏やかな気持ちになっていた。

きっとすごく安心したからかも知れない。
俺はマミさんと心が通じあえた気がして、このまま一緒にいたくて、マミさんに手を差し出した。


俺「一緒に踊ろう?」


マミ「うん♪」


そして、二人はキャンプファイアーが終るまで踊り続けた。
本当は途中で相手を変えなきゃいけなかったんだけど。
手にかいた汗なんか気にもせず、つないだ手を離さないように、せっかくつないだ手がまた離れないように、俺たちは踊り続けた。


翌日は俺の誕生日。
一年でたった一日だけ俺とマミさんが同い年になれる日。
そう考えると、誕生日が同じよりロマンチックな気がする。

宿泊学習の日程は登山。
グループごとにまとまって行動する。
俺はグループの先頭に立って女子たちをエスコートする。
俺の後ろにはもちろんマミさん。
この日、珍しくカメラを持ってた俺はマミさんの写真をいっぱい撮った。
頂上で撮った集合写真や、マミさんの顔のアップ写真、今でも大切な宝物だ。

頂上付近ではグループのみんながいきなりHAPPY BIRTHDAYを歌ってくれた。
感動して泣きそうになったけど、笑ってごまかした。
こういうサプライズは、するのは好きだがされるのは苦手だ。感動させようとするみんなの策略にまんまとかかってしまうからだ。
そしてこの時、俺はある計画を思いついた。

その週の週末。
俺とマミさん、グループの男子の一人の三人のための合同誕生会が近所のお好み焼き屋を貸し切って開かれた。
いつもは勢いよく酒をあおる男子たちも今日はペースが遅い。
それには理由があった。

誕生会もある程度盛り上がり、雰囲気も良くなってきた頃を見計らい、男子全員に合図を送る。
席を立つ男子たち。
店の電気が半分ほど落とされ薄暗い中、男子たちが横二列に並んで立つ。

俺「今日は姉ちゃんのためにプレゼントを用意しました。たまには男たちもやるってとこを見せます!」


1、2、3…
手拍子から始まるこの曲はDREAMS COME TRUEの「HAPPY HAPPY BIRTHDAY」
そう、先日の俺の誕生日のできごとで思いついたのはマミさんへの歌のプレゼント。
宿泊学習から帰った後、俺は男子たちに呼び掛けコッソリみんなで練習していたのだ。

歌う俺の真正面で手拍子を打ちながら涙をこぼすマミさん。
良かった、喜んでくれている。
他の女子も手拍子を打ちながら感動してるようだ。
歌い終わると、俺はマミさんの隣に座る。

俺「どうだった?やるときはやるっしょ?」


マミ「もう、歌なんて反則だよぉ〜、いつ練習したの?」
かなり涙声なマミさん。
涙がこぼれ落ちてる。

俺「帰ってきてから、カラオケ行ったりしてさ。」


マミ「あたし昨日みんなからお祝いしてもらったから、もう何もないと思ってたよぉ〜」どうやら、前日に女子達にお祝いされていたようだった。


でも、本当に喜んでもらえてよかった。
俺は心の底から思った。


その後、飲み会は終了し解散。
俺とマミさんは帰り道に二人で写真を撮って帰った。
俺はまた、マミさんに惹かれていった。

それからしばらくたったある日、俺とマミさんは近くの公園で話をしていた。

夜の公園は静かで、二人きりで話すにはちょうどいい。
ベンチに二人寄り添って座り、お互いのいろんな話をした。
この季節はまだ肌寒いけど、それさえ二人が寄り添う理由になる。
俺はマミさんにこんな話をした。

俺「きっと姉ちゃんから見た世界は姉ちゃんを中心に回ってるんだよね、俺から見た世界が俺を中心に回ってるように。だから、姉ちゃんの目に入ってくるものとか、姉ちゃんが持ってるものには全部意味があると思わない?」

恐る恐るマミさんの目を見る。
マミさんは俺の目をちゃんと見てくれていた。
俺は話を続けた。

俺「例えば、姉ちゃんが使ってるシャーペンとか消ゴムだって姉ちゃんに使われるために、そのためだけに存在するのかも知れない。もしかしたら、俺だって姉ちゃんに出会うためだけに産まれてきたのかも知れないよ?」

俺はマミさんの顔をのぞきこみ反応を待つ。

マミ「そうなの?」

マミさんの目が輝いてる。
口許から八重歯がこぼれる。
この笑顔がたまらなく好きなんだ。


俺「わかんないw」


マミ「www」


照れ隠しにとぼけた俺に気付いてたのかはわからないけど、マミさんは笑ってくれた。

俺「でも、もし本当にそうだとしたら周りにあるもの全部が好きになれそうじゃない?」

ゆっくりまばたきをしたマミさんは、小さくうなずいて俺の目をずっと見つめている。

俺「だから、そんな周りにあるものとか、周りにいてくれてる人にね『ありがとう』って言えたら、すごい…すごい素敵なことじゃない?」


マミ「…」


俺「だから、俺は『ありがとう』の中にいろんな意味を込めて使ってる。例えば、出会ってくれて『ありがとう』とか、極論を言えばここにい(存在し)てくれて『ありがとう』って意味だってある。俺はこれからもそういう気持ち持って生きていく。」


こんな話をしてマミさんが何か感じてくれることは期待してなかった。共感してくれる人なんていないと思ってた。
ただ、俺が何を考えて生きてるかを知ってほしかった。
ほんの少しでいい、ほんの少しでよかった。
でも、マミさんが口にした言葉は、

マミ「…だいちゃんの話聞いてると、何か優しい気持ちになれるね♪」

だった。


俺は嬉しかった。
なぜだろう、いつも感じる。
俺とマミさんは感情が同調するような感覚がする。
お互いが同じことを考えてるだけなのかはわからないけど、お互いがお互いの考えてることがわかることがよくある。
きっと、似てる部分があるのかも知れない。
ただ、相性がいいのは自分でもよくわかった。

俺はマミさんに同じ気持ちを持っていてほしくて、俺とマミさんだけの繋がりがほしくて、

俺「だから、姉ちゃんも『ありがとう』って言うときはそういう意味を込めて言ってみな?きっと姉ちゃんも優しくなれるから。」

と言った。
マミさんは、

マミ「『ありがとう』♪」

と言ってくれた。


俺とマミさんは手を握りあって、この肌寒い夜の公園で言葉を交わすこともなく、寄り添っていた。
この日から二人の間での『ありがとう』は特別な意味を持つことになった。

ある夜。
いつもの公園のいつものベンチで、いつものように二人で話をしていた。
いつものようにマミさんがいろんなことを話して、いつものように俺は隣で相槌をうつ。
マミさんは日常の些細なことをいっぱい話してくれる。
その度、俺は相槌をうってマミさんのことをまたひとつ知る。
マミさんの隣はすごく安心できて、このままずっと隣にいたいと何度も考え、何度も願った。




不意にマミさんの話が止まり、二人の間に沈黙が流れる。




俺がマミさんの顔を見ると、マミさんと目が合った。




少しうるんだ目に惹かれてしまう。




俺「キスしていい?」
思わず言葉に出してしまった。
言ったことを認識した瞬間に、心臓が飛び出るくらいに速く鼓動が鳴る。





二人に再び沈黙が流れる。





俺「やっぱ、ダメだよね(苦笑)」
沈黙に耐えきれなくなって、マミさんから目をそらす。



嫌な沈黙。
何か言ってほしい。




マミ「いいよ♪」
その瞬間、俺の心臓が1秒程止まった気がした。
物凄い勢いでマミさんの方へ振り返る。
また、目が合った。
そして、さっきよりも速くなる鼓動。




俺「ホントに?」
緊張を悟られないように低い声で聞くと、マミさんは小さく頷いた。




高鳴る鼓動を抑えられない。
俺はマミさんの肩を右手で引き寄せながら、そっと唇を重ねた。



1秒?1分?1時間?




時間の感覚がなくなってしまう。




唇が離れると、お互いに見つめ合う。
今にも泣き出しそうな程、濡れた瞳。

マミさんが口を開く。

マミ「あたし、だいちゃんのことホントに大好きになってるんだよ♪」

たまらなくなってまたキスをする。
さっきの言葉が頭の中でこだまして俺の感覚を狂わせる。
マミさんの体温が更にそれを増長させる。
俺はまた、マミさんに落ちていった。

七月某日。
俺は不安の中にいた。
理由はひとつ。
マミさんが連休を利用して実家に帰り、この日寮に戻ってくるのだ。
実家に帰るとマミさんは彼氏に会ってくるだろう。
だから、また俺と距離をとろうとするんじゃないかと思った。
それが不安でたまらなかった。
眠れない夜に悩まされながら、マミさんの帰りを待つ。




案の定、マミさんの俺に対する態度は一変した。





明らかに避けられる。
メールをしても冷たい返事しか来ない。

『マミさんが帰って来たら驚かせよう』
『一緒に行こうって言おう』と思って、頑張って内緒でとったライブのチケット。
マミさんが好きなHYが出るから、きっと喜んでくれると思って信じてたのに。
これじゃ、言い出すこともできない。

ライブだけじゃなくて、まだまだいっぱいいろんな所に行っていろんな事をしたかった。
それなのに、マミさんは俺から逃げていく。
俺はマミさんに渡すハズだったチケットを一人眺めてはため息をついた。

俺はマミさんと話がしたくて、いつもの公園のいつものベンチに呼び出した。
もちろん、マミさんと仲直りしたいからだ。
俺は先にベンチに座り、マミさんを待っていた。
初夏の暑さも今は何も感じない。
心の中はマミさんでいっぱいだった。
何を話そうか、どうしたらマミさんと仲直りできるか…いくら考えても答えは出ない。
マミさんは少し遅れてやってきて、いつものように俺の隣に座った。
俺は何から話していいかわからなくて、しばしの沈黙の後に、


俺「ごめんね、急に呼び出して」


と、当たり障りのない挨拶をした。
また二人の間に流れる沈黙。


俺「ねぇ、俺と仲直りしてよ」
思い切って切り出した。


マミさんは考え込んでいる。
俺の不安は次第にふくらんでいく。


マミ「ごめんね、だいちゃんのそばにいることはできない」


俺の心臓が止まりそうになる。
飲んだ息が出てこない。


俺「それは彼氏がいるから?」


マミ「うん…」


マミさんは下を向いた。
また、沈黙が流れる。
俺の頭の中は、ほぼ真っ白になっていた。
それでも、マミさんと離れたくないから必死ですがりついた。


俺「どうしてもダメなの?」


マミ「うん…」


マミさんの返事を聞く度、俺の心はどんどん追い込まれていった。
もう、俺に話せることはなかった。

何も言えないまま時間は無情に過ぎ去り、寮の門限の時間がきてしまった。


マミ「そろそろ戻らないと…」


俺「そうだね…」


ベンチを離れ、公園を後にする。
俺はマミさんの前を歩き、後ろにマミさんの足音を感じながらうつ向き歩いていた。

『これで終わりなのか?こんなあっけない終わりかたでいいのか?どうすれば…どうすればいい?』

俺にできることはひとつだった。


俺は歩を止め、振り返った。
一瞬、躊躇するマミさん。



俺はマミさんの体を思い切り引き寄せ、マミさんにキスをした。



時間が止まる感覚。
ほんの一瞬のキスは、ものすごく長い時間に感じられた。
俺は唇を離すのが怖かった。
今ふさいでいる唇を離したら、その唇がどんな言葉を紡ぎ出すのかわからないから。

俺は唇を離すと、マミさんの目を見つめた。

マミ「バカ」


俺「?」


マミ「バカバカバカ!」


俺「???」
俺はマミさんが何を言ってるのか、一瞬わからなかった。


マミ「離れられないでしょ…」


俺「…いいよ、離れなくて」
俺は精一杯の余裕の表情でマミさんに言った。


そして俺は振り返り、帰り道を進んだ。
すると、後ろからマミさんの声。

マミ「バカバカバカ」


俺「バカでいいよ」


マミ「バカ…」
少し声が弱くなる。


俺は離れていくマミさんを引き留めることができた。
マミさんが、またいつ離れていくかわからない不安を残して、二人の季節は暑さを増していった。


その夜、俺は布団の中で考えごとをしていた。

わかってる。
二人はきっと求め合ってる。
それが叶わないのは、マミさんが意外に世間体を気にするから。
そして、もう0にはできないものがあるから。
俺と出会った時には既に0ではなかった『それ』を捨ててまで、俺を選ぶのはリスクが高すぎるから。
わかってる、わかってる。
何度も自分に言い聞かせた。

七月下旬。
俺とマミさんは熱気漂うアリーナの真ん中にいた。
そう、この日は例のライブの日だ。
俺は前日マミさんにチケットを渡し「誰か友達誘って行きな」と意地を張ったが、「だいちゃんがあたしのためにとったんだからだいちゃんと行く」と言われ、結局一緒に行くことになった。
会場で場所をとり、開演を今か今かと待つ。
隣にいるマミさんも嬉しそうだ。
一緒に来れてよかった、今更ながらに思う。

そして、開演。
会場は一気に盛り上がりをみせる。
目当てのHYはトップバッター。
ライブが始まり沸き上がる歓声。
最初にふさわしいノリのいい曲。
そして、うまくノりきれない俺!

そう、俺はこの時HYの曲をあまり知らなかった…

マミさんはといえば、曲は知ってるけどライブ初体験でどうしていいかわからない様子。
俺とマミさんは手を繋ぎ、とりあえず周りに合わせていることにした…

そして、HYの出番が終了。
感想としては、生で『AM11:00』が聴けたことに感動したことと、マミさんがすごく満足してくれたことが嬉しかった。

この日、俺とマミさんの肌には真っ赤な日焼けができた。
そして、二人の心にはまた一つ消えない思い出ができた。

八月中旬。
前、中、後期と三期制のこの学校に、短い夏休みがやってきた。
生徒は全員、例外なく実家に帰省する。
久しぶりの故郷にテンションも高まり、友人と遊びまくっていたある日、一通の残暑見舞いが届いた。

マミさんからだ。

『残暑お見舞い申し上げます。
だいちゃん、夏休み楽しんでる???
そっちはやっぱり涼しい??こっちはね〜やっと涼しくなってきたよぉ♪
それはそうと、前期おつかれ様でしたぁ♪だいちゃんのおかげで毎日楽しかった☆中期もお互い頑張ろーね!!じゃあ、会えるの楽しみにしてまあす♪気を付けて寮まで来てね☆』

夏休みの間も連絡をとるのを控えていたが、暑中見舞いが来たからにはメールを送らない訳にはいかない。
と、自分に言い訳をしつつマミさんにメールを送る。


俺『暑中見舞い届いたよ、中期に会えるの楽しみにしてるよ!』


確かこんな内容だったハズだ。
そして、マミさんから返信。


マミ『うん、あたしも楽しみにしてる♪』


こんなニュアンスのメールがきた。
俺は早く夏休みが終わることを心の片隅で願った。


そして、夏休みもそろそろ終わろうという頃。
俺は友達と遊んで楽しかったことをマミさんにメールで伝えた。


俺『今日久しぶりに友達に会ってきたよ、すごい楽しかったさ!』


返信はすぐにきた。



マミ『そっか よかったね じゃあね。』



え、マミさんのメールの書き方じゃない…
俺は一瞬の混乱に陥った。
何があったんだ?彼氏にバレたのか?
気になってマミさんにメールを送っても、それ以降マミさんから返事がくることはなかった。

夏休みが明け、俺は学校の寮に戻ってきた。
俺の心の中には、安心と不安との両方が交互に生まれては消え、とても不安定な状態になっていた。
『今度こそマミさんと離れてしまうかもしれない。』
『でも、マミさんは何回も俺に振り向いてくれたから今度も大丈夫。』
ただ、根拠のない自信で自分をごまかしていただけかもしれない。

そして、マミさんが帰り会う時がきた。
久しぶりに会ったマミさんは、どこか大人っぽくなった気がした。
長い黒髪にパーマがかかったからかも知れない。
いつもならそれをネタに話しかけるのだが、それができないことに苛立ちを覚える。
お互いが話しかけづらい雰囲気を出している。
マミさんは平静を装って友達と話していたが、明らかに『近寄るな』オーラを出している。
俺もそれを察知してマミさんに近寄ることができなかった。

そして俺とマミさんは、そのまま何ヶ月もの間距離を置くことになった。

距離を置いていた期間はまさに生き地獄だった。

俺はマミさんの気持ちがわかっていたから、なるべく関わらないように努めた。
しかし、嫌でもマミさんは視界に入ってくる。嫌でもマミさんの声が耳に入ってくる。
当然だ、いつでも俺はマミさんを追っていたのだから。
俺は自分が変わらずマミさんを想っていることに罪悪感を感じていた。
もし、マミさんが俺のことを嫌いになってくれたならどれくらい楽だろうかと何度も考え、その度に俺はマミさんを酷い言葉で傷つけていた。
マミさんが俺を避けるように、俺もマミさんを避けるようになった。
自分に嘘をつきながら送る生活は想像以上にツラく、俺は体調を崩しがちになった。
夜も眠れず、食べ物も喉を通らないため、入学当初に比べ体重が8kgも落ちた。


限界が来ていた。


俺が学校を辞める決意をしたのは11月の下旬のことだった。

十二月下旬。
冬休みを目前に控えたこの日、学校の生徒達による学芸会のようなものが開かれた。
俺はこの日のためにバンドを組んで出場した。
出番は3番目。
全部で3曲を演奏する予定だ。

開会から出番まではそんなに時間はかからなかった。
夕方から行われため夜遅くまでは続けられないので、一組一組の持ち時間が少ないのだ。
生徒たちはこの20分足らずの短い時間で自分たちを表現する。
もちろん、俺たちのバンドも同じだ。
もともと俺は人を楽しませることが苦手じゃないので、ライブも緻密に計算した上で曲とMCのバランスを考えている。
曲と曲の間には必ず世間話をして、ギャグを交えつつ次の曲までもっていく。
観客の生徒達も盛り上がる中、2曲目の演奏が終わり、いよいよ最後の曲に入る直前…


俺「最後の曲を歌うにはメンバーが足りないんで、ちょっとメンバーを追加したいと思います」


もちろん、このことは計算された上でのことなのでメンバー全員が知っている。


俺「まず、キーボード………リーダー!!」

そう、俺のグループのリーダーはピアノが弾けたのだ。そこを狙って俺がスカウトした。男が弾くピアノというのはすごくいいものだと感じたのはリーダーがキーボードを弾いた時だったのを覚えている。


俺「そして、女性ボーカル…………マミさん!!」


もちろん、マミさんもメンバーに入っていることは知っていた。
この日のために一ヶ月間複雑な想いを抱きながら一緒に練習してきたのだ。
そして、始まる最後の曲。



HYの『AM11:00』



リーダーのキーボードから始まり、歓声があがる。

夏にマミさんと一緒に行ったライブを思い出す。
あの日一緒に聴いたこの曲を、今日一緒に歌うことを、マミさんはどう思っているだろうか。
何度も何度もカラオケで一緒に歌ったこの曲を、どんな想いで歌うのだろうか。
そんなことを考えながら、曲は最後のサビに入る。


『だから、お願い…』
何度も何度も一緒に歌ってきたから二人ともわかっている。


『僕のそばにいてくれないか…』
サビはお互いの目を見ながら歌うこと。
いつからかそれが二人の約束になっていた。

『君が好きだから…』
思えば、二人の間の約束ごとがいっぱいあった。
いつもの公園のいつものベンチ。
オレンジジュース。
相づちを打つだけの俺にどんな些細なことでも話してくれるマミさん。
そのマミさんを取り巻く全てが好きだった。


『この想いが君に届くように…』
この歌に乗せた俺の想いがマミさんに届いてくれたら…。
いや、きっと届いている。
今でも信じている。
二人が同じ想いを持っていることを。


『願いが叶いますように…』
マミさんがまたあの笑顔で笑いかけてくれますように…

閉会後。
俺はマミさんに呼び出された。
いつもの公園の、いつものベンチに。

先に来ていたマミさんの隣に座ると、マミさんはいろんな話をしてくれた。

地元にいる親の話や、ライブの感想、友達がかっこよかったって言ってたこと。
そして、マミさん自身がすごく貴重な経験をしたということ。
ライブに誘ったことをマミさんは『ありがとう』と言ってくれた。
俺もマミさんに『ありがとう』と告げた。
たったそれだけで二人は笑顔になる。

とても、楽しい時間だった。
まるで、仲が良かった頃の二人に戻れたようだった。
いろんなことを話してくれるマミさんの隣で俺は相づちをうって…
二人で作った二人のペース。
すごく安心した。

でも、楽しい時間はそう長くは続かない。
マミさんはその後予定があったらしく、急いで出かけなければいけなかった。

謝るマミさんに俺は精一杯の余裕の表情で大丈夫だと言った。
本当はまだ一緒にいたかったけど。

そして、マミさんは足早に公園から立ち去った。
俺の大好きなあの笑顔で『じゃあね』と言って。

俺はベンチに座ったまま、マミさんを見送った。
見えなくなるまでマミさんの後ろ姿を目で追っていた。

そして、ベンチに残された俺は、その場を立ち去ることができなかった。

晩秋の肌寒さが胸に染みた。

今年一月中旬。
俺は学校を辞めることを決めた。
退学する手続きはいろいろあったが、それでも二日とかからなかった。
退学する理由を書くとき、何と書いていいかわからず「一身上の都合で」と書いた。
本当は複数の要素が組み合わさって退学を決意したのだが、最後の一押しはやはりマミさんの存在だった。

俺の横で嬉しそうに彼氏の話をするマミさんの笑顔を見ては胸が締め付けられ、その度に体調を崩しては眠れない夜に悩まされた。

そして、俺は退学することをマミさんに伝えるため、公園に呼び出した。


一月なのにまだ雪も降らないこの公園で、いつものベンチに座り、いつものようにマミさんを待った。
ただ、いつもと違うのはマミさんにお別れを告げることだ。

もし、マミさんが悲しんだらどうしよう。
悲しんでほしいけど、悲しんでほしくない。
複雑な心境だ。
ひと思いに笑って喜んではくれないだろうか…
そんなことを考えながらマミさんが来るのを待った。

やがて、マミさんがやってきた。
俺は頭の中で何度もシミュレーションした最善の行動を復唱した。
そして、隣にマミさんが座った。

俺の頭の中は…真っ白になった。
実際、目の前にいられると緊張してしまう。
俺はいつものように余裕の表情を作りながら、


俺「ごめんね、急に呼び出して」


と、いつものように無難な挨拶をする。


マミ「ううん、どうしたの?」


俺の大好きな笑顔でマミさんが聞き返す。
その笑顔を見るのがツラかった。
もしかしたら、この笑顔を俺が自分の手で消してしまうかもしれない。
いつもより眩しく見えるマミさんの笑顔を見ないように、俺はベンチを立ってお別れを言うタイミングを計りながら、マミさんの目の前を行ったり来たりしていた。
そんな俺の様子を見てマミさんは、


マミ「ん?どうしたの?」


と、聞いてくる。
こうしていてもラチがあかない。
俺は覚悟を決め、ベンチに座るマミさんの目の前にしゃがみこんで告げた。


俺「俺さ、この学校やめて地元に帰るんだ。」


マミ「え…」


マミさんの表情が明らかに暗くなるのがわかった。


マミ「それはあたしがだいちゃん追い込んだから?」


俺「違うよ、姉ちゃんのせいじゃない。」


確かにマミさんの存在は大きかったが、理由はそれだけではないし、第一そんなことをマミさんに考えてほしくなかった。
叶うならば、マミさんが俺のことを忘れてくれれば…そう思っていた。

黙りこむマミさんを見ていられなくなり、俺はマミさんにこう告げた。


俺「俺さ、姉ちゃんにいっぱいお世話になったからさ、姉ちゃんに一番最初に伝えたくて…」


それを伝えてどうなるわけでもない。
いたずらに二人の思い出を掘り起こさせる結果は見えていた。


マミ「あたしは聞きたくなかった…」


心臓が一瞬止まる。
マミさんの言葉が、マミさんの声が、俺の胸に突き刺さる。
マミさんはうつ向いたまま、何かを考えているのか何も話さない。
俺は怖くなって恐る恐るマミさんの肩に手を伸ばし、マミさんに声をかけた。


俺「ごめんね?大丈…」


マミ「もういい!!」


マミさんの肩に伸ばした手はマミさんに届くことはなく、マミさんは早足で公園から立ち去った。




傷付けた。
マミさんを傷付けてしまった。
俺はベンチに座り、マミさんに届かなかった手を握りしめた。


『マミさんに嫌われた方がいい。』
(でも、嫌われたくない。)
『マミさんから離れた方がいい。』
(でも、離れたくない。)
『マミさんに忘れてほしい。』
(でも、忘れてほしくない。)

どれが本心かわからなくなった。
ただ、俺の目から流れた涙はこの状況を望んではいないことを表していた。

その日の夜、俺はマミさんに謝罪のメールを入れた。
しばらくの後、マミさんからメールが返ってきた。

マミ「ホントにいっちゃうの?」

胸が痛む。
俺は一言「そうだよ」と告げた。

マミ「あたしイヤだよ、だいちゃんと一緒に卒業したい。」

俺「ごめんね」

マミ「どうしても帰っちゃうの?」

俺「うん、もう手続きも終わったんだ」

マミ「そっか、やっぱりあたしのせい?」

俺「違うよ、姉ちゃんのせいじゃない」

マミ「違わないよ、あたしがだいちゃん追い込んだから、だいちゃんが帰っちゃう…」

俺「違うから、姉ちゃんは何も悪くない」

こんな時に上手なウソがつけたらいいのに、と強く思った。
もし、マミさんを傷付けずに済むならどんなウソもつけたハズだ。
それができないのは、マミさんがすべてをわかってるから…俺がすべてをわかってほしいから。

マミさんは言った。

「あたしなんでもっと素直になれなかったんだろ…」

その一言で感じた。
マミさんがちゃんと俺のことを想ってくれていたことを。

俺「姉ちゃん、俺のことちゃんと大切に思ってくれてたんだね」

マミ「当たり前でしょ?あたしはだいちゃんのこと大切に思ってるし、いつもちゃんとだいちゃんのこと見てたんだよ」

俺は溢れる涙を抑えることができなかった。
二人は何度すれちがっただろう、何度お互いを傷付け合って、それでも二人は寄り添って、何度笑顔を交しあっただろう。
マミさんとの今までの思い出が溢れて出して止まらなかった。

俺「ごめんね、ごめんね」

俺は何度も謝った。
謝ることしかできなかった。

マミ「あたし、だいちゃんといれるあと一週間を大切にするね」

そう言ってくれたマミさんに俺は『ありがとう』と言って、その日は寝ることにした。

翌日、俺は買い物にでかけた。
マミさんの心に何か残せたらいいなと思い、プレゼントを買いにきたのだ。
そして、巨大なショッピングモールを一人で歩くこと1時間、ふと本屋が目にとまった。
何の変哲もないただの本屋だったが、俺は無性に本をプレゼントしたくなった。

俺は本屋の中を隅から隅まで歩いてマミさんに贈りたい本を探した。
しかし、本屋中を見て回るのはやはり時間がかかり、俺は2時間も本屋の中をウロウロしていた。

別に本じゃなくてもいい。
やっぱり違うものにしようか。
そう思いかけていた。
その時、不意に手にとった本の隣に一冊の本があった。


『ありがとう。の本』


ありがとうの本…
そのタイトルを見た時にマミさんとの思い出が次々に蘇った。
何度も何度もマミさんと交しあった言葉。
二人の間では特別な意味を持つ言葉。
お互いが笑顔になれる魔法の言葉。
俺はその本を手にとり、表紙を開いた。
そこには、日常の些細なことに対する『ありがとう』がいっぱい綴られていた。
普段から自分の気持ちを言葉にできない俺の、マミさんに伝えたい気持ちがすべて詰め込まれたような本だった。
俺はその本をすぐにレジに持っていき、プレゼント用に包んでもらった。


この本を読んだマミさんは何を思い、何を考えるのだろう?
俺と過ごした日々を思い出してくれるのだろうか?
思い出してくれなくてもいい。
ただ、このプレゼントに乗せて『ありがとう』を伝えたかった。

そして、俺はマミさんを呼び出し本を渡すことにした。

マミさんはすぐにやってきた。
二人は少し気まずい雰囲気の中向かい合った。
俺はマミさんの顔を見ることができずに少しうつ向いたまま、マミさんに本を渡した。
マミさんは、

マミ「え?いいよ、あたしだいちゃんにもらってばっかりだもん…」

と遠慮した。
俺は半ば強引にマミさんにプレゼントを渡した。
そんな遠慮で俺が引き下がる訳はない。
それはマミさんも知っている。


俺「せっかく姉ちゃんのために用意したんだから、受け取ってよ。でなきゃ捨てるしかないしょ?」


マミ「うん、じゃあもらうよ」


と、言ってマミさんは受け取ってくれた。
俺はそれ以上その場にいられなくなり、足早に立ち去ろうとした。
その時、マミさんが俺を呼び止めた。


マミ「だいちゃん!」


俺はびっくりして振り返る。


マミ「ありがとう♪」


どこかぎこちない笑顔のマミさんに、俺もまたぎこちない笑顔で返す。
俺はマミさんに小さく手を振り、その場を去った。


しばらくの後、マミさんからメールが入った。

マミ「だいちゃん、やっぱり行っちゃヤダ」

俺はマミさんが本を読んだのだと確信し、マミさんに「本読んだ?」と聞いた。
案の定マミさんから本を読んだと返事がきた。

俺はマミさんに伝えた。
俺のことを忘れてほしくない。
俺もマミさんのことは忘れない。

マミさんは当たり前だと言ってくれた。
忘れない。
忘れるハズがない。
だから、忘れないで。

お互いに顔も見えないのに、俺はマミさんの涙を感じた。
それは俺も涙を流してるからかも知れないが、確かに二人は同じ気持ちを持っていた。

『そばにいたい』

そして、俺とマミさんは最後の日にデートをしようと約束した。

翌週の金曜日。
正式な俺の退学の日。
この日を境に俺は学校を辞め、寮を出ることになる。

その夜、近くのお好み焼き屋を貸しきって俺の送別会が行われた。
あの誕生日の日のように…

いつもの飲み会のように楽しい時間が流れる。
いつものように飲んで食べてはバカなことをやって笑い飛ばす。
変なことを言ってはそれをネタに話が盛り上がる。

しかし、それもやはり束の間。
時間はあっという間に流れ、終りの時間まで残り30分を切ってしまった。

その時、グループの女子達が席を立った。
店の電気が半分ほど落とされ、少し薄暗い中女子達が横二列に並ぶ。


マミ「あたしの誕生日に歌を歌ってくれたみたいに、だいちゃんに歌を贈ります」


携帯の着メロが流れ歌い出す。


Kiroroの『Best friend』


みんな歌いながらボロボロ泣き出している。
中には歌えなくなっている子さえいる。
俺はこの歌を聴いたことがなかったのに、この歌の歌詞がなぜか切なくて涙が流れた。
歌を聴いて泣いたのは、これが人生でたった一度きりだ。
歌が終わると、俺は泣き崩れてる女の子達に、


俺「ボロボロじゃん、もっと練習しなよ」


と言った。
もちろん俺もボロボロなので、照れ隠しなのはバレバレだった。

俺はコートのポケットに忍ばせておいた手紙を取り出し、全員に渡した。
この一週間で書き上げた何十枚もの手紙。
一人一人のイメージに合った絵葉書を一緒に入れてある。
そして、手紙の最後には必ず『○○と出会えたことにありがとう』というメッセージを添えた。
今読まれるのは恥ずかしいので、寮に帰ってから読んでほしいと告げた。

飲み会の帰り道、みんなから手紙やプレゼントをもらった。
もちろんマミさんからも…

マミ「それには秘密があるから♪」

という言葉と共に。

深夜、俺はみんなからもらった手紙やプレゼントを見ていた。
どれも見ていて心が洗われる。
最後にマミさんからもらった黄色い袋を手にとった。
中を開けると、赤いアルバムと一通の手紙が入っていた。

『DEARだいちゃん
一緒にいられるのも残りわずかだね。
「大学やめて、地元帰る」って聞いてから、あっという間に一週間たってしまったね。
あたし、この一週間、自分のためにも、だいちゃんのためにも何かしたいって思ってたのに、時間が限られていたのに、何にもできなかった。。。本当にごめんね。
だいちゃんから本プレゼントされて、あたしも何かをってずっと考えてた。
誰よりも先にだいちゃんのこと知ったから、一番いいものを贈りたいって思って、たくさん考えた。
きっと、だいちゃんなら、あたしがあげるものなら何でも、快く受け取ってくれたよね。
でも普通の(売ってる)モノなら誰だって渡すことができるから、1つしかないものをあげようって思った。
それが、手紙と一緒に渡した、赤いアルバム。
あたし赤スキだから。そういえば、だいちゃんよく赤パーカー着てたよね。
このアルバムは、あたしが今までで一番時間かけてつくったプレゼントだと思う。
だいちゃんに打ち明けられてから、ずっと考えて、毎日手にして、少しずつ完成させたものだから。。。あたしのその時Aの気持ちetcがたくさん入ってるはず。入れたつもりだから。。。
力が入らない時や、淋しくなった時、見てくれたらうれしいな。

だいちゃんと過ごした日々、だいちゃんに感謝されるような事、何一つしてないのに、だいちゃんは何度もあたしにありがとうって言ってくれたよね。
どんなヒドイことしても許してくれたよね、いつもあたしのこと考えてくれて、笑いかけてくれたよね。
だいちゃんがしてくれたこと本当にうれしくて気持ちも受け入れてあげたかった。。。頭では、いつものように接しようって思っても、全然ダメだった。たくさん傷つけてごめんなさい。
もっと一緒にいたかったし、前みたく普通に話せるようになりたかった。
時間が解決してくれるって思ったケド、思ったようにうまくいかないね。。。
今、こんな形だけど、あたし、やっぱりだいちゃんと出逢えて本当に良かった。
だいちゃんの存在はあたしにとって大きいものだったんだなってスゴク思ってる。
いることが当たり前で、話しなくても、近くにいるもんだと思っていたから、離れるって聞いて、信じられないのが少しずつ強くなってきた。
冷静になるまでは、泣くことしかできなかったんだケド。。。でも、離れていくことに慣れてしまうんじゃないかっていうのが一番ツライ。。。きっとお互いそういう風になってしまうんだろうケド、せめて、二人が過ごした短い時間の一つの場面だけでも忘れないでいようね!
こんなあたしにいつも話しかけてくれたり、笑いかけてくれて本当にありがとう。。。

最後は笑ってバイAしたいから、悲しいムードはなしにするね!

明後日、二人が笑ってすごく良い日になりますように…

FROMマミ』

後半は涙で文字が見えないくらいだった。

俺は次に赤いアルバムを手に取った。
表紙を開くと、一枚の絵葉書。
『あなたからは たくさん たくさん もらったの。
目にはみえないもの。
でも、とっても とっても 大切なもの。』
と書かれた、柔らかい雰囲気の絵葉書。

次のページを開くと、四月に行われたグループの女の子の誕生日の写真。
そういえば、この時からマミさんに惹かれ始めた気がする。マミさんが写ってないのはマミさんが写真を撮ったからか。

隣のページには宿泊研修の行きのバスの中の写真。
ケンカ(?)してたんだよな…なんて思った。
キャンプファイアーの時に仲直りをして、しばらくの間そばにいたんだ。

またページをめくると登山の頂上での記念写真。
ちゃっかりマミさんの隣にいる。
少し顔がにやける。
そういえば、マミさんのどアップ写真があった。どれも大切な宝物だ。

隣には友達のコスプレ写真。
これは詳しくは語るまい…w

更にページをめくると、また一枚の絵葉書。
『あの時の想いや この時の涙。
むだだったことなんて 何ひとつないんだよ。』
とても優しいマミさんらしい絵葉書。
俺たち二人はお互いの想いを知っていた。
そして、何度も涙を流した。
全部が無駄じゃなかったなら、二人の出会いは何のためにあったのだろう?

隣には、マミさんとのツーショット。
お好み焼き屋での誕生会で撮った写真。
マミさんのために歌を歌って、今日はそのお返しに歌を歌ってもらった。
楽しかったな…
楽しかった時期はすごく早かった気がする。

ページをめくると、また二人のツーショット。
誕生会の帰り道、二人で撮った写真。
四隅には二人で撮ったプリクラが貼ってある。
楽しかった日々が次々と蘇る。

隣にはまた絵葉書。
『うれしかったり
たのしかったり
くるしかったり
あなたといたり。
このひとときひとときが 私にとって宝物です。』
この絵葉書シリーズはどこで売ってるんだろうと考えつつ、書かれた言葉をひとつひとつ噛み締める。

更にページを進めていくと、また一枚の絵葉書。
『ねえ ひとりじゃないよ
しっかり瞳をあけてごらん
ゆっくり周りをみてごらん
ほら あなたのそばには
こんなに愛が あふれてる』
今思えば、俺はいろんな人に愛されながら生きているのかも知れない。
でも、気付くのはいつも無くしてからなんだ…

隣には友人の誕生日で行ったカラオケでの写真。
大きな口を開けてパフェを食べるマミさんが可愛らしい。
そういえば、二人とも甘いもの好きだったっけ。

次のページにはグループで行った焼き肉の写真。
この時は確か距離を置いてた時期だ。
だけど、偶然二人は隣同士に座ってちょっと気まずかった記憶がある。

隣のページにはまた絵葉書。
さっきまでの絵葉書と違い、Mr.Childrenの『Tomorrow never knows』の歌詞が書いてある。
この歌、好きなの知ってたのかな?
たまにカラオケで歌ってたかも知れない。

次のページにはグループの女の子の誕生日で俺と友達がカレーを作った時の写真。
この時は仲が良くて、買い出しに一緒に付き合ってもらった。
全然料理をしない俺にしてはよくできたと思う。

隣のページには体育大会での写真。
例のようにマミさんと同じグループになってしまい、気まずい思いをした。

次のページにはマミさんの手書きで、
『自分の周り
そこにはみんなが待っている。
けして君は一人じゃないから。
安心して大丈夫』
と書かれていた。

隣には登山の時、みんながHAPPY BIRTHDAYを歌ってくれた場所で撮った写真。
みんな思い思いの方向を指差していて、少し笑えた。

最後のページには猫が寝転がってる絵葉書。
『がんばる前のひと休み…』

そして、隣には『だいちゃんのいいところ♪』と題した言葉が書かれていた。

・どんな時でも、人に優しくできる
・何事も一筋である
・自分の意見をしっかり持っている
・歌が上手
・バスケットが上手
・料理が上手(カレーおいしかったデス)
・理解力が優れている。
・人のために何かをしようと思える
・行動力がある
・食べ方がキレイ
・誰かを笑わせる力がある
・考えることができる
・人を許すことができる
・誰かを必要としている
・誰かを愛せる

そして、最後に『ずっと誰かを思いやれる人でいて下さい!』というメッセージがあった。
俺はアルバムを閉じて、深い切なさと寂しさ、愛しさを抱き締めた。

地元に帰る前日。
マミさんとの最後のデートの日。
集合は朝8時。
ゆっくり用意していいよ。と言った俺に、いいよあたしが早く会いたいんだもん。とマミさんが言ってこの時間になった。
今日の予定はカラオケ→水族館→観覧車だ。
ゆっくりデートがしたいと俺が言うと、マミさんが珍しくデートコースを考えてくれた。
カラオケでゆっくり過ごした後、水族館ででっかいマンボウが見たいと言い、最後にでっかい観覧車に乗りたいと言った。
でっかいでっかいばっかりで何ともマミさんらしいけど、すごく微笑ましい提案だった。

しばらくしてマミさんがやって来た。
俺を見つけると駆け寄ってきて、「ごめんね?待たせちゃった?」と聞いてくる。
俺は「うん、かなり待った」とふざけてみせる。
久しぶりにマミさんのつけマツゲを見た気がした。
そして、その足でカラオケまで歩いた。

カラオケに着いても俺はなぜか歌えなかった。
別れが目前に迫っている。
まだまだ一緒にいたいのに。
そんな気持ちを歌えるハズもなかったし、歌いたくなかった。
それに、マミさんに伝えたいことがたくさんある。
俺はそれを伝えることにした。

しばらくの間マミさんは俺のために歌ってくれた。
俺はマミさんの隣で一人塞ぎこんでた。
それに気付いたマミさんが声をかけてくれた。


マミ「どうしたの、大丈夫?」


俺はマミさんに今までの気持ちを話し始めた。
夏にマミさんが離れてからの俺の気持ちを…


俺「俺さ、姉ちゃんのことが怖かったんだ。姉ちゃんは俺の全部を否定した、否定された気になったんだ。姉ちゃんに触れることもできない、一緒にご飯も食べれない、遊びに行くこともできない、話しかけることすらできない…もう何も姉ちゃんと繋がりがなくなって、全部を否定されて、怖かったんだ、それを実感するのが。」


マミ「違うよ、それは学校の中だけの話…」


俺「一緒だよ!」
ダメだ、止まらない。
この日、この時までに溜め込んだ想いが溢れ出して止まらなかった。


俺「何もできないじゃんか、そんなに否定されたら…つらいじゃんか、そんなに否定されたら…」


俺はマミさんに背を向けたまま涙を流した。
言葉にしようと思ってもできない気持ちや言葉にしたくない気持ちが出る場所を失って涙になって出てきたようだった。

その時、後ろからマミさんが抱きついてきた。
マミさんも鼻をぐずらせている。
俺は後ろから抱きついてきたマミさんの腕をつかんだ。


俺「ツラかったんだから…ツラかったんだから…」


マミ「うん…うん…」


俺「キツイこと言ってごめんね、ホントはあんなこと思ってないから。」


マミ「うん…うん…」


俺「ごめん…ごめんね?」


マミ「ううん、あたしもごめんだよ…いっぱいだいちゃんのこと傷付けた。」


俺「いいよ、そんなこと。俺は姉ちゃんに幸せになってもらいたかったんだ。だから、我慢したんだよ?」


マミ「うん…ごめんね?」


俺「でも、それよりも俺が…俺が姉ちゃんを幸せにしたかった。」


マミ「…幸せだったよ?」


俺はマミさんの方へ振り返った。
マミさんと目があう。
涙で輝く瞳に吸い込まれる。


もう、言葉はいらなかった。


俺とマミさんはお互いがお互いを包み込むように抱き締めあい、キスをした。
やがて来る別れを惜しむように。
解り合えた喜びを分かち合うように。
いつまでも、いつまでもキスは続いた。

そして、俺とマミさんは肌を重ねた。
俺は何度も何度もマミさんに囁いた。


俺「愛してる、愛してる」


「愛」の意味なんて未だにわからない。
ただ、その時感じた感情は…
マミさんの幸せを願い、マミさんを幸せにしたいと願い、幸せに満ちたあの感情は…確かに「愛」だったんじゃないかと今でも思う。

時間は迫っていた。
別れの時間まで2時間。
もう水族館は諦め、観覧車に乗りに行くことにした。
電車に揺られ30分。着いた先は「海浜幕張」…


海浜幕張?


ここ…観覧車あったっけ?


俺は恐る恐るマミさんに聞いてみる。


俺「もしかして、『葛西臨海公園』じゃ…ない?」


マミ「あ、そうだ!」


マミさんの顔色が暗くなっていくのがわかる。
しまった、全部マミさんに任せたから行き先がどこか知らなかった。
でっかい観覧車といえば、葛西臨海公園かビーナスフォートくらいしか有名なところはないじゃないか。
ひとまず俺は平常心を保ち、マミさんに言った。


俺「とりあえず、ここから最短でいける路線だと帰りに間に合うか調べよう?」


マミ「う、うん」


マミさんはかなり慌てている。
当たり前だ、俺だってかなりドキドキもので冷静を装うのが精一杯だ。
時刻表を調べて計算をする。


…ダメだ、間に合わない。


マミ「ごめんね、ごめんね?あたし最後の最後で何してるんだろ…」


俺は混乱した頭をフル回転して考える。
出した答えは…


俺「このままだとアレだから、プリクラでも撮ってくか?」


だった。
最後の最後でお互いに何をやってるんだろうと思う。
それでも、仲良くプリクラを撮ることができた。

いよいよ、最後の時が迫る。
寮に帰りつくギリギリの電車を駅のホームでマミさんと待つ。
俺とマミさんは手を繋ぎながら、何を話していいかわからず、ただ立ち尽くしていた。

その時、駅のライトに照らされて空中にキラキラと輝くものが…


俺「あ…雪?」


よく目を凝らさないとわからないが、確かに降っている。
この冬は今まで一度も降らなかったのに…
二人きりで立ち尽くしていたホームを白い粉雪が包み込む。
まるで、悲しみに立ち尽くす二人を優しく包み込むように…


この日、この時、この場所に初雪が降った。
悔しくも二人の最後のデートの日に…

寮の門の前。
ついに最後の瞬間。
俺はもう寮には入れないため、ここまでが限界だ。
もう、門限は過ぎている。
二人は向かい合って、手を繋いだまま離れられずにいた。
見つめ合う二人は、何をするタイミングもつかめずにいた。
何かを始めたら、すべてが終わってしまいそうな恐怖。
別れを惜しみながら、二人は時間を進めることしかできない。
ついに、マミさんが口を開く。


マミ「また遊びに来るでしょ?」


俺「うん、絶対来るから、その時は観覧車乗ろうね。」


マミ「うん、約束ね♪」











マミ「じゃあ、そろそろ行くね?」


俺「うん…」


マミ「じゃあさ、1、2、3で一緒に振り返ろ?寂しいから…」


俺「うん、わかった」










マミ「いくよ?」



俺・マミ「1」




俺・マミ「2」




俺・マミ「3」
俺とマミさんは一緒に振り返り、そのままその場を立ち去った。
背中にマミさんの足音を感じながら、掌にマミさんの温もりを感じながら。
寒い冬の始まりを告げる初雪が、二人の別れを見守っていた。

帰りの電車の中。
押し寄せる悲しみに涙を流さないように、マミさんからもらったアルバムを見ていた。
中に貼ってある写真を一枚一枚見ながら、いろいろなことを思い出していた。
ふとある写真で目がとまる。
きっとコンビニのコピー機でコピーした写真の、ちょうど背景に当たる部分。


文字のようなものがうっすらと見える。


俺は思い切ってアルバムから写真を剥がし、裏を見てみた。

すると、そこにはマミさんからの手書きのメッセージが…


俺は表紙に戻り一枚一枚確認していく。

まず、一番最初の絵葉書の裏には、
『だいちゃんと出逢って、もう10ヵ月。
あっという間に冬が来たね。
この間、いろんな事話して、いろんな所行って、楽しい事たくさんあったね。
だいちゃんにとって、一番の思い出は何かな?
あたしは、HYも映画もスゴク楽しかったし、誕生日も歌まで歌ってもらえてとってもうれしかった。でも、やっぱり一番に出てくるのは、毎日の何気ない日々かなぁ。。。
朝おはよ〜って言ったり、一緒にたくさん笑ったり、オレンジジュースはすごくおいしかった。
いつもA優しく接してくれたよね。
いつもA隣にいてくれたよね。
本当にありがとう』

次のページの女の子の誕生会の写真の裏には、
『この時から、あたしはだいちゃんに、“姉ちゃん”って呼ばれるようになって、
この時から、“だいちゃん”って呼ぶようになったんだよね。
メールのアド、ケータイの番号、聞いてくれた時は、すごくうれしかった。
歌もうれしかった。この日以来、あたしは、いろんな物、だいちゃんからもらって。。。
改めて、幸せ者だったなと思います。』

登山の時の頂上で撮った写真の裏には、
『だいちゃんの19回目のBirthDay☆
すっごいキレイで眺めのいい場所で、歌うたったね。
実は、自分のコトみたいに思えて、涙ぐんでたりしてたあたし…
忘れられないよね!
ずっと、つきそってくれたよね♪男らしくてかっこよかったよ☆
すっごく助かりました!
一番はりきってたわりに、体力もたなかったし。。。
また、いつか、みんなで山登りたいねー
だいちゃんにとって、20回目の誕生日も、心に残る最高の年になるといいな♪というより、、、HAPPYな年になりますように。。。祈ってます☆』

2枚目の絵葉書の裏には、
『あたしだいちゃんに一つ謝らなきゃいけないことがあるんだ。
たくさん謝ることがあるんだけどとりあえず…
あたしね、中期中、前期のだいちゃんとの思い出全部忘れようとしてたんだ。彼氏のこともあるけど、それよりも前に自分を守ろうと思ったんだと思う。。。
だいちゃんを一度でも恋愛対象としてみてしまったことに、罪悪感感じて。。。
それで、どうしてもだいちゃんの目を見ることができなかった。
自分勝手すぎて、どうしたらいいのかも分からなくて。
でも、今、だいちゃんから逃げてた自分と向き合ってどうしてもっと早く素直に言えなかったのかなって思う。だいちゃんの気持ちが嬉しくて、離れてほしくなくて、でも、自分はだいちゃんの気持ちに応えてあげられなくて。
うまく表現できなくて。
きっとだいちゃんは、このままでもいいからって思ってたと思うけど、そんなことをしてる自分がだいちゃんを遊んでるみたいでやだった。本当は、たくさんまだA話したかったり歌だって聞きたかった。
もう少しあたしが大人だったら、だいちゃん追い詰めることもなかったよね。。。
離れなくちゃいけないことを知って、たくさん考えてあたしはだいちゃんのコト大切にしてた(思ってた)のを改めて感じた。
だから、思い出になってしまうけど、忘れられてしまうかも知れないけど、あたしはだいちゃんと出逢ったこと、ずっと覚えていようと思う。
たった10ヵ月だったけど、いい時間だったよ!
ありがとう☆』

マミさんの誕生会の時のツーショットの写真の裏には、
『みんないつも飲むのにこの日だけは、全然飲まなくて、少し心配してた。
でも、それが、歌のためだったなんて何もしらず…
電気が消えて、あたしとだいちゃんと○○(もう一人)3人のケーキが出てきた。
前の日にマミ's BirthDayやってもらってたから、あたしすっごいビックリしたよ。
その後、男子で歌うたってくれて本当にうれしかったなぁ!
みんなに聞いたら、「大地くんに(お礼なら)言ってやって下さい。あいつすごく頑張ってたから」って口そろえて言ってきて。
この時ねー、だいちゃんの彼女はいいなぁって思ったの覚えてる。
ビックリしたし、すごく心にグッときたから。
だいちゃんは誰よりも人を思いやれる素晴らしい心の持ち主だから、ずっと変わらないだいちゃんでいてほしいな☆
心に残る最高の誕生日会、どうもありがとう☆20歳の誕生日、一生忘れないから☆』

体育大会の写真の裏には、
『一緒にドッヂボール頑張ったね!
結果はよくなかったけど、同じコートの中で楽しめて良かった☆
ケンカ(?)んー、仲が微妙でも、同じコトをして、笑っていると楽しいもんなんだよね。
遠くで見てても、だいちゃんがいいプレイすると、あたしうれしかったよ♪』

猫の絵葉書の裏には、
『継続も大事だけど、息抜きも同じくらい大事だと思う。
だいちゃん、これ読んでるってことは今、休憩中かな??
充電満杯になったら、何スルのかな??
元気になるためには、ごはんたくさん食べなきゃダメだよ!
ということで、今から誰かと焼肉食べに行っておいで☆やっぱこんな時はお肉でしょ♪
それでも、気持ち晴れなかったらメールしておいで!
お姉ちゃんとして、どんなコトでも弟の話ちゃんと聞くから。そんで出来る限り元気になれるように協力する!
だいちゃんはあたしが寂しがらないように毎日笑っていられるように接してくれたから、人を想える力は誰よりもあると思う。きっと、だいちゃんの周りの人も気づいてるはず!
だから、安心して前に進んで大丈夫!!
深呼吸して、背伸びして、大好きな歌を歌って、頑張ろう!
今日がダメでも、明日はいい日になるから!』

今年四月。
友達と遊ぶため三日間だけ戻ってきた俺は、最終日のこの日予定を一日空けていた。
俺はマミさんに会いに、いつもの公園のいつものベンチに座っていた。
時刻は午後9時を回っている。
四月と言えど夜はかなり冷え込む。
俺は震えながらマミさんを待った。

「俺、姉ちゃんと話がしたいからいつもの場所で待ってるから。来てくれるまで待ってるから。」

そのメールを送って5時間。
未だ連絡はなく、俺はずっとベンチに座っていた。
いつくるかわからないから、なかなかその場を離れることができない。

実はこの日、マミさんに用事があるのは知っていた。それでも、マミさんと話がしたかったから俺はこうして待っている。
マミさんと会えたところで話すことは決まってない。
ただ…ただ、マミさんに会いたかった。今日一日いろんな場所を歩いて回った。
マミさんと一緒に行ったカラオケ屋のまえを通ったり、マミさんと行くハズだった観覧車を見に行った。
ひとつひとつを見て歩く度にいろんなことを思い出した。

最初はマミさんに会う予定はなかったが、どうしても会いたくなってメールを送ってしまった。

その時、マミさんからメールがきた。

マミ「ごめんね、だいちゃんに会うことはできない…」

心臓が止まる感覚。
何度も味わった感覚。
メールを送って返事を待ってたらラチがあかない。
俺は思い切って電話をかけた。

その時、マミさんからメールがきた。

マミ「ごめんね、だいちゃんに会うことはできない…」

心臓が止まる感覚。
何度も味わった感覚。
メールを送って返事を待ってたらラチがあかない。
俺は思い切って電話をかけた。

マミさんはすぐに出た。


マミ「もしもし」


俺「…久しぶり」


マミ「うん、久しぶり」


俺「あのさ、どうしてもダメかな?」


マミ「うん…」


俺「どうして?」


マミ「あたしね、どうしてもだいちゃんのこと友達としては見れないから…」


そうか、マミさんは彼氏と仲良くやってるのかな…きっと、俺と会ったら揺らいじゃうんだろうな…
それはやっぱりマミさんの幸せじゃないんだろうな…やっぱり最後にマミさんを幸せにできるのは俺じゃなかったんだな。
いろいろな気持ちが溢れてきた。
俺はそれを口にしたらダメなんだと悟った。
俺がマミさんに「好きだ」というのは簡単だが、それをしたらダメなんだと思った。


俺「そうか…そっか…」
それしか言えなかった。


マミ「うん、ごめんね」


俺はそれ以上マミさんに言えることはなくなった。


俺「うん…ちゃんと幸せになりなよ?」
それが精一杯だった。


マミ「うん、ありがとう…だいちゃんもね」

俺「ありがとう」
俺は思った。
今…今俺を幸せにできるのは誰でもない、マミさんだけなんだ、と。
それが言えないのは、マミさんの幸せを願ってるからなのか?俺が臆病だからか?

俺はいつものように余裕の表情を作った。
電話の先の見えないマミさんに向かって。


俺「姉ちゃん…」


マミ「ん?」


俺「今までありがとう」


マミ「うん…うん」


俺「じゃあ、そろそろ切るね?元気でね?」


マミ「うん、だいちゃんもね?」


俺「それじゃ、ホント今までありがとね」


電話を切った。
もうそれ以上マミさんの声を聞いていられなかった。
携帯の画面には「3分32秒」の表示が光って消えた。

そして、俺はマミさんと連絡をとることはなくなった。
あの日から、俺は呪いがかかったように毎日マミさんのことを考える。
完全にマミさんに心を奪われ新しい恋に踏み切れないでいる。
口許からこぼれる八重歯、一重まぶたにつけマツゲ、綺麗な黒髪に白い肌。
もし、マミさんにまた会うことがあるのなら…その時はまたあの無邪気な笑顔で俺を迎えてほしい。
そしたら、俺はマミさんに「好きだ」と伝えよう。
あの日伝えられなかった想いを伝えよう。
そして、マミさんがいつか結婚した時…その時に俺の恋は幕を下ろす。
その時まで、その時まではマミさんのことを想っていたい。
いつまでも…



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