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- 359 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
13:28:44 ID:6jF+s4KZ
- 十二月下旬。
冬休みを目前に控えたこの日、学校の生徒達による学芸会のようなものが開かれた。 俺はこの日のためにバンドを組んで出場した。
出番は3番目。 全部で3曲を演奏する予定だ。
開会から出番まではそんなに時間はかからなかった。
夕方から行われため夜遅くまでは続けられないので、一組一組の持ち時間が少ないのだ。 生徒たちはこの20分足らずの短い時間で自分たちを表現する。
もちろん、俺たちのバンドも同じだ。
- 360 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
13:30:25 ID:6jF+s4KZ
- もともと俺は人を楽しませることが苦手じゃないので、ライブも緻密に計算した上で曲とMCのバランスを考えている。
曲と曲の間には必ず世間話をして、ギャグを交えつつ次の曲までもっていく。
観客の生徒達も盛り上がる中、2曲目の演奏が終わり、いよいよ最後の曲に入る直前…
俺「最後の曲を歌うにはメンバーが足りないんで、ちょっとメンバーを追加したいと思います」
もちろん、このことは計算された上でのことなのでメンバー全員が知っている。
- 361 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
13:32:26 ID:6jF+s4KZ
- 俺「まず、キーボード………リーダー!!」
そう、俺のグループのリーダーはピアノが弾けたのだ。そこを狙って俺がスカウトした。男が弾くピアノというのはすごくいいものだと感じたのはリーダーがキーボードを弾いた時だったのを覚えている。
俺「そして、女性ボーカル…………マミさん!!」
もちろん、マミさんもメンバーに入っていることは知っていた。
この日のために一ヶ月間複雑な想いを抱きながら一緒に練習してきたのだ。 そして、始まる最後の曲。
HYの『AM11:00』
- 362 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
13:34:03 ID:6jF+s4KZ
- リーダーのキーボードから始まり、歓声があがる。
夏にマミさんと一緒に行ったライブを思い出す。
あの日一緒に聴いたこの曲を、今日一緒に歌うことを、マミさんはどう思っているだろうか。
何度も何度もカラオケで一緒に歌ったこの曲を、どんな想いで歌うのだろうか。 そんなことを考えながら、曲は最後のサビに入る。
- 363 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
13:35:38 ID:6jF+s4KZ
- 『だから、お願い…』
何度も何度も一緒に歌ってきたから二人ともわかっている。
『僕のそばにいてくれないか…』
サビはお互いの目を見ながら歌うこと。 いつからかそれが二人の約束になっていた。
『君が好きだから…』
思えば、二人の間の約束ごとがいっぱいあった。 いつもの公園のいつものベンチ。 オレンジジュース。
相づちを打つだけの俺にどんな些細なことでも話してくれるマミさん。 そのマミさんを取り巻く全てが好きだった。
『この想いが君に届くように…』 この歌に乗せた俺の想いがマミさんに届いてくれたら…。 いや、きっと届いている。
今でも信じている。 二人が同じ想いを持っていることを。
『願いが叶いますように…』
マミさんがまたあの笑顔で笑いかけてくれますように…
- 368 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:29:36 ID:6jF+s4KZ
- 閉会後。
俺はマミさんに呼び出された。 いつもの公園の、いつものベンチに。
先に来ていたマミさんの隣に座ると、マミさんはいろんな話をしてくれた。
地元にいる親の話や、ライブの感想、友達がかっこよかったって言ってたこと。 そして、マミさん自身がすごく貴重な経験をしたということ。
ライブに誘ったことをマミさんは『ありがとう』と言ってくれた。 俺もマミさんに『ありがとう』と告げた。 たったそれだけで二人は笑顔になる。
とても、楽しい時間だった。 まるで、仲が良かった頃の二人に戻れたようだった。
いろんなことを話してくれるマミさんの隣で俺は相づちをうって… 二人で作った二人のペース。 すごく安心した。
- 369 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:32:01 ID:6jF+s4KZ
- でも、楽しい時間はそう長くは続かない。
マミさんはその後予定があったらしく、急いで出かけなければいけなかった。
謝るマミさんに俺は精一杯の余裕の表情で大丈夫だと言った。 本当はまだ一緒にいたかったけど。
そして、マミさんは足早に公園から立ち去った。 俺の大好きなあの笑顔で『じゃあね』と言って。
俺はベンチに座ったまま、マミさんを見送った。 見えなくなるまでマミさんの後ろ姿を目で追っていた。
そして、ベンチに残された俺は、その場を立ち去ることができなかった。
晩秋の肌寒さが胸に染みた。
- 370 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:33:26 ID:6jF+s4KZ
- 今年一月中旬。
俺は学校を辞めることを決めた。 退学する手続きはいろいろあったが、それでも二日とかからなかった。
退学する理由を書くとき、何と書いていいかわからず「一身上の都合で」と書いた。
本当は複数の要素が組み合わさって退学を決意したのだが、最後の一押しはやはりマミさんの存在だった。
俺の横で嬉しそうに彼氏の話をするマミさんの笑顔を見ては胸が締め付けられ、その度に体調を崩しては眠れない夜に悩まされた。
そして、俺は退学することをマミさんに伝えるため、公園に呼び出した。
- 371 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:36:02 ID:6jF+s4KZ
- 一月なのにまだ雪も降らないこの公園で、いつものベンチに座り、いつものようにマミさんを待った。
ただ、いつもと違うのはマミさんにお別れを告げることだ。
もし、マミさんが悲しんだらどうしよう。
悲しんでほしいけど、悲しんでほしくない。 複雑な心境だ。 ひと思いに笑って喜んではくれないだろうか…
そんなことを考えながらマミさんが来るのを待った。
- 372 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:38:17 ID:6jF+s4KZ
- やがて、マミさんがやってきた。
俺は頭の中で何度もシミュレーションした最善の行動を復唱した。 そして、隣にマミさんが座った。
俺の頭の中は…真っ白になった。 実際、目の前にいられると緊張してしまう。 俺はいつものように余裕の表情を作りながら、
俺「ごめんね、急に呼び出して」
と、いつものように無難な挨拶をする。
マミ「ううん、どうしたの?」
俺の大好きな笑顔でマミさんが聞き返す。 その笑顔を見るのがツラかった。
もしかしたら、この笑顔を俺が自分の手で消してしまうかもしれない。
- 373 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:39:39 ID:6jF+s4KZ
- いつもより眩しく見えるマミさんの笑顔を見ないように、俺はベンチを立ってお別れを言うタイミングを計りながら、マミさんの目の前を行ったり来たりしていた。
そんな俺の様子を見てマミさんは、
マミ「ん?どうしたの?」
と、聞いてくる。
いつまでもこうしてたらラチがあかない。 俺は覚悟を決め、ベンチに座るマミさんの目の前にしゃがみこんで告げた。
俺「俺さ、この学校やめて地元に帰るんだ。」
マミ「え…」
マミさんの表情が明らかに暗くなるのがわかった。
- 374 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:41:48 ID:6jF+s4KZ
- いつもより眩しく見えるマミさんの笑顔を見ないように、俺はベンチを立ってお別れを言うタイミングを計りながら、マミさんの目の前を行ったり来たりしていた。
そんな俺の様子を見てマミさんは、
マミ「ん?どうしたの?」
と、聞いてくる。
いつまでもこうしてたらラチがあかない。 俺は覚悟を決め、ベンチに座るマミさんの目の前にしゃがみこんで告げた。
俺「俺さ、この学校やめて地元に帰るんだ。」
マミ「え…」
マミさんの表情が明らかに暗くなるのがわかった。
- 376 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:42:35 ID:6jF+s4KZ
- マミ「それはあたしがだいちゃん追い込んだから?」
俺「違うよ、姉ちゃんのせいじゃない。」
確かにマミさんの存在は大きかったが、理由はそれだけではないし、第一そんなことをマミさんに考えてほしくなかった。
叶うならば、マミさんが俺のことを忘れてくれれば…そう思っていた。
黙りこむマミさんを見ていられなくなり、俺はマミさんにこう告げた。
俺「俺さ、姉ちゃんにいっぱいお世話になったからさ、姉ちゃんに一番最初に伝えたくて…」
それを伝えてどうなるわけでもない。
いたずらに二人の思い出を掘り起こさせる結果は見えていた。
- 377 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:46:43 ID:6jF+s4KZ
- マミ「あたしは聞きたくなかった…」
心臓が一瞬止まる。 マミさんの言葉が、マミさんの声が、俺の胸に突き刺さる。
マミさんはうつ向いたまま、何かを考えているのか何も話さない。 俺は怖くなって恐る恐るマミさんの肩に手を伸ばし、マミさんに声をかけた。
俺「ごめんね?大丈…」
マミ「もういい!!」
マミさんの肩に伸ばした手はマミさんに届くことはなく、マミさんは早足で公園から立ち去った。
傷付けた。
マミさんを傷付けてしまった。 俺はベンチに座り、マミさんに届かなかった手を握りしめた。
- 378 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:48:57 ID:6jF+s4KZ
- 『マミさんに嫌われた方がいい。』
(でも、嫌われたくない。) 『マミさんから離れた方がいい。』 (でも、離れたくない。)
『マミさんに忘れてほしい。』 (でも、忘れてほしくない。)
どれが本心かわからなくなった。
ただ、俺の目から流れた涙はこの状況を望んではいないことを表していた。
- 379 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:50:34 ID:6jF+s4KZ
- その日の夜、俺はマミさんに謝罪のメールを入れた。
しばらくの後、マミさんからメールが返ってきた。
マミ「ホントにいっちゃうの?」
胸が痛む。 俺は一言「そうだよ」と告げた。
マミ「あたしイヤだよ、だいちゃんと一緒に卒業したい。」
俺「ごめんね」
マミ「どうしても帰っちゃうの?」
俺「うん、もう手続きも終わったんだ」
マミ「そっか、やっぱりあたしのせい?」
俺「違うよ、姉ちゃんのせいじゃない」
マミ「違わないよ、あたしがだいちゃん追い込んだから、だいちゃんが帰っちゃう…」
俺「違うから、姉ちゃんは何も悪くない」
こんな時に上手なウソがつけたらいいのに、と強く思った。 もし、マミさんを傷付けずに済むならどんなウソもつけたハズだ。
それができないのは、マミさんがすべてをわかってるから…俺がすべてをわかってほしいから。
- 380 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:52:55 ID:6jF+s4KZ
- マミさんは言った。
「あたしなんでもっと素直になれなかったんだろ…」
その一言で感じた。
マミさんがちゃんと俺のことを想ってくれていたことを。
俺「姉ちゃん、俺のことちゃんと大切に思ってくれてたんだね」
マミ「当たり前でしょ?あたしはだいちゃんのこと大切に思ってるし、いつもちゃんとだいちゃんのこと見てたんだよ」
俺は溢れる涙を抑えることができなかった。
- 381 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土)
14:54:17 ID:6jF+s4KZ
- 二人は何度すれちがっただろう、何度お互いを傷付け合って、それでも二人は寄り添って、何度笑顔を交しあっただろう。
マミさんとの今までの思い出が溢れて出して止まらなかった。
俺「ごめんね、ごめんね」
俺は何度も謝った。
謝ることしかできなかった。
マミ「あたし、だいちゃんといれるあと一週間を大切にするね」
そう言ってくれたマミさんに俺は『ありがとう』と言って、その日は寝ることにした。
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