一年間の『ありがとう』

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302 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:18:49 ID:Jb7KSI7K
一週間後。
今日から宿泊学習。
ある山中の宿泊施設に泊まり込み、生徒の交流を深めるのが目的だ。
俺とマミさんはまだギクシャクしたまま当日を迎えていた。
行きのバスも、昼食の時も、夕食の時だって俺たちはお互いを意識しながら、関わりをもてずにいた。
この一週間で何か変わったかというと、何も変わってない。

ただ、俺はマミさんにストラップを渡した。
また、仲良くしてほしくて、ただそれだけでいいと思っていた。
でも、結局何も変わらなかった。
俺たちは、お互いに避けあいながら夜を迎えた。

303 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:20:04 ID:Jb7KSI7K
今夜はキャンプファイヤー。
暗闇に浮かぶ炎を囲んで、歌ったり、ゲームをしたり、踊ったりする。
夜の雰囲気がそうさせるのか、キャンプファイアーの炎がそうさせるのかは定かではなかったが、やっぱりみんなテンションが高い。
こんな素敵な夜は何か素敵なことが起こりそうで、素敵なことが起きてほしくて、そんな気持ちが俺を後押ししてくれた。
俺はどうしてもマミさんと仲直りがしたかった。
だから、一世一代の賭けに出たんだ(そんな大それたものじゃないけど…)

304 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:23:09 ID:Jb7KSI7K
キャンプファイアー最後の演目はフォークダンス。

俺は友達と踊るマミさんのもとに行き、いつものようにビビった気持ちを隠すため余裕の表情で声をかけた。

俺「少し話しようよ」


マミ「うん…」


マミさんの表情が曇る。
やっぱりマミさんに嫌われてしまったんだろうか?
心臓がきつく締まる感じがする。
もう、伝えたいことはひとつしかない。
今はそれを素直に伝えるだけだ。
人の輪から少しはずれたところで、マミさんの顔を見る。
俺は自分のありったけの勇気を振り絞る。

305 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:24:13 ID:Jb7KSI7K
俺「俺、姉ちゃんと仲直りしたいんだ。姉ちゃんが好きだから、そばにいてほしいんだ」


マミさんは少しうつ向いた。


マミ「うん…うん。」


しばしの沈黙。
そして、マミさんが口を開く。


マミ「ごめんね、だいちゃんの気持ちわかってるのに」


俺の目をまっすぐ見据えてくるその目には、涙がたまっていた。



「ごめんね」の意味は聞かなくてもわかった。
涙目のマミさんの顔が優しく微笑んでいたから…。

306 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:25:59 ID:Jb7KSI7K
マミさんも俺と同じ気持ちでいてくれた。
俺は嬉しいとかそういう気持ちもあったけど、なぜかすごく穏やかな気持ちになっていた。
きっとすごく安心したからかも知れない。
俺はマミさんと心が通じあえた気がして、このまま一緒にいたくて、マミさんに手を差し出した。


俺「一緒に踊ろう?」


マミ「うん♪」


そして、二人はキャンプファイアーが終るまで踊り続けた。
本当は途中で相手を変えなきゃいけなかったんだけど。
手にかいた汗なんか気にもせず、つないだ手を離さないように、せっかくつないだ手がまた離れないように、俺たちは踊り続けた。

307 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 01:28:30 ID:Jb7KSI7K
翌日は俺の誕生日。
一年でたった一日だけ俺とマミさんが同い年になれる日。
そう考えると、誕生日が同じよりロマンチックな気がする。

宿泊学習の日程は登山。
グループごとにまとまって行動する。
俺はグループの先頭に立って女子たちをエスコートする。
俺の後ろにはもちろんマミさん。
この日、珍しくカメラを持ってた俺はマミさんの写真をいっぱい撮った。
頂上で撮った集合写真や、マミさんの顔のアップ写真、今でも大切な宝物だ。

頂上付近ではグループのみんながいきなりHAPPY BIRTHDAYを歌ってくれた。
感動して泣きそうになったけど、笑ってごまかした。
こういうサプライズは、するのは好きだがされるのは苦手だ。感動させようとするみんなの策略にまんまとかかってしまうからだ。
そしてこの時、俺はある計画を思いついた。

311 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 03:22:33 ID:Jb7KSI7K
その週の週末。
俺とマミさん、グループの男子の一人の三人のための合同誕生会が近所のお好み焼き屋を貸し切って開かれた。
いつもは勢いよく酒をあおる男子たちも今日はペースが遅い。
それには理由があった。

誕生会もある程度盛り上がり、雰囲気も良くなってきた頃を見計らい、男子全員に合図を送る。
席を立つ男子たち。
店の電気が半分ほど落とされ薄暗い中、男子たちが横二列に並んで立つ。

俺「今日は姉ちゃんのためにプレゼントを用意しました。たまには男たちもやるってとこを見せます!」

312 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 03:24:11 ID:Jb7KSI7K
1、2、3…
手拍子から始まるこの曲はDREAMS COME TRUEの「HAPPY HAPPY BIRTHDAY」
そう、先日の俺の誕生日のできごとで思いついたのはマミさんへの歌のプレゼント。
宿泊学習から帰った後、俺は男子たちに呼び掛けコッソリみんなで練習していたのだ。

歌う俺の真正面で手拍子を打ちながら涙をこぼすマミさん。
良かった、喜んでくれている。
他の女子も手拍子を打ちながら感動してるようだ。
歌い終わると、俺はマミさんの隣に座る。

俺「どうだった?やるときはやるっしょ?」


マミ「もう、歌なんて反則だよぉ〜、いつ練習したの?」
かなり涙声なマミさん。
涙がこぼれ落ちてる。

俺「帰ってきてから、カラオケ行ったりしてさ。」


マミ「あたし昨日みんなからお祝いしてもらったから、もう何もないと思ってたよぉ〜」どうやら、前日に女子達にお祝いされていたようだった。

313 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/24(土) 03:25:15 ID:Jb7KSI7K
でも、本当に喜んでもらえてよかった。
俺は心の底から思った。


その後、飲み会は終了し解散。
俺とマミさんは帰り道に二人で写真を撮って帰った。
俺はまた、マミさんに惹かれていった。

327 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:24:12 ID:6jF+s4KZ
それからしばらくたったある日、俺とマミさんは近くの公園で話をしていた。

夜の公園は静かで、二人きりで話すにはちょうどいい。
ベンチに二人寄り添って座り、お互いのいろんな話をした。
この季節はまだ肌寒いけど、それさえ二人が寄り添う理由になる。
俺はマミさんにこんな話をした。

俺「きっと姉ちゃんから見た世界は姉ちゃんを中心に回ってるんだよね、俺から見た世界が俺を中心に回ってるように。だから、姉ちゃんの目に入ってくるものとか、姉ちゃんが持ってるものには全部意味があると思わない?」

恐る恐るマミさんの目を見る。
マミさんは俺の目をちゃんと見てくれていた。
俺は話を続けた。

328 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:26:23 ID:6jF+s4KZ
俺「例えば、姉ちゃんが使ってるシャーペンとか消ゴムだって姉ちゃんに使われるために、そのためだけに存在するのかも知れない。もしかしたら、俺だって姉ちゃんに出会うためだけに産まれてきたのかも知れないよ?」

俺はマミさんの顔をのぞきこみ反応を待つ。

マミ「そうなの?」

マミさんの目が輝いてる。
口許から八重歯がこぼれる。
この笑顔がたまらなく好きなんだ。


俺「わかんないw」


マミ「www」


照れ隠しにとぼけた俺に気付いてたのかはわからないけど、マミさんは笑ってくれた。

329 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:27:20 ID:6jF+s4KZ
俺「でも、もし本当にそうだとしたら周りにあるもの全部が好きになれそうじゃない?」

ゆっくりまばたきをしたマミさんは、小さくうなずいて俺の目をずっと見つめている。

俺「だから、そんな周りにあるものとか、周りにいてくれてる人にね『ありがとう』って言えたら、すごい…すごい素敵なことじゃない?」


マミ「…」


俺「だから、俺は『ありがとう』の中にいろんな意味を込めて使ってる。例えば、出会ってくれて『ありがとう』とか、極論を言えばここにい(存在し)てくれて『ありがとう』って意味だってある。俺はこれからもそういう気持ち持って生きていく。」

330 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:28:30 ID:6jF+s4KZ
こんな話をしてマミさんが何か感じてくれることは期待してなかった。共感してくれる人なんていないと思ってた。
ただ、俺が何を考えて生きてるかを知ってほしかった。
ほんの少しでいい、ほんの少しでよかった。
でも、マミさんが口にした言葉は、

マミ「…だいちゃんの話聞いてると、何か優しい気持ちになれるね♪」

だった。


俺は嬉しかった。
なぜだろう、いつも感じる。
俺とマミさんは感情が同調するような感覚がする。
お互いが同じことを考えてるだけなのかはわからないけど、お互いがお互いの考えてることがわかることがよくある。
きっと、似てる部分があるのかも知れない。
ただ、相性がいいのは自分でもよくわかった。

331 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:31:49 ID:6jF+s4KZ
俺はマミさんに同じ気持ちを持っていてほしくて、俺とマミさんだけの繋がりがほしくて、

俺「だから、姉ちゃんも『ありがとう』って言うときはそういう意味を込めて言ってみな?きっと姉ちゃんも優しくなれるから。」

と言った。
マミさんは、

マミ「『ありがとう』♪」

と言ってくれた。


俺とマミさんは手を握りあって、この肌寒い夜の公園で言葉を交わすこともなく、寄り添っていた。
この日から二人の間での『ありがとう』は特別な意味を持つことになった。

332 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:32:47 ID:6jF+s4KZ
それからのマミさんとの日々はとても楽しかった。

マミ「あたしオレンジジュース好きだけど、あたしが食堂行くころにはもうないんだよ」
と、マミさんが言えば俺は毎朝食堂に早く行きオレンジジュースを2つ取る。
ひとつはマミさんの分、もうひとつは俺の分。
一緒にご飯は食べないけど、マミさんの近くを通るときそっと渡す。
『ありがとう』の言葉とあの笑顔。
俺は無器用な笑顔で返す。

学校の中ですれ違ったり、授業中に目が合う時は二人で笑顔を交わし合ったり、アイコンタクトをとったりしていた。
それだけでわかる。
「俺はマミさんを想っている。」
「あたしはだいちゃんを見ている。」
もともと、お互いの考えることがわかる二人だから、それだけでわかりあえる。

333 :大地 ◆oWouGftk5w :2005/12/31(土) 12:33:33 ID:6jF+s4KZ
夜になると、いつもの公園のいつものベンチで二人でいろんな話をした。
二人の過去や、未来の夢、現在(いま)の悩み。
今でも全部覚えている。

休日には二人で遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりもした。
普段は大人っぽくて綺麗なんだけど、嬉しいことがあると子供みたいに跳びはねて無邪気な笑顔を見せてくれる。

一重まぶたに付けマツゲ、口許からのぞく八重歯、長い黒髪に白い肌。
全部が好きだった。

マミさんのそばにいる時間は、すごく満たされた幸せな時間だった。

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