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133 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 22:26:36 ID:DV3GgTKn
翌日は仕事なので、0時を過ぎた頃に彼女にオヤスミメールを出し、
返事を待たずにベッドに入った。今頃どうしているのだろうと、中々寝付く
ことができず、寝返りばかりうっていた。

ようやくウトウトし始めたころ、充電器にセットされた携帯のバイブ音が部屋に
鳴り響いた。ベッドから飛び起きて携帯をチェックすると、メールは彼女からだった。

「やばい、終電寝過ごして終点まで来ちゃった。帰れない。」

もう10月。外で朝まで時間をつぶせる季節じゃない。俺はまわりにビジネスホテルか
マンガ喫茶でもないかと彼女に尋ねたが、どうも泥酔しているようでまともな返事が
帰ってこない。

『駅名を聞いて迎えにいったほうがいいんじゃないか?』

そんな考えが頭をよぎった。もし彼女がOKしてくれれば、ようやく恋焦がれた彼女に
会うことが出来る。しかしそれは明らかにルール違反だ。しかし彼女が今連絡を
とってきてるのは俺だ。

彼女が頼ってきているんだし、この場合ルール違反も仕方がないんじゃないか?
でもなんで彼女は俺にこんなことを言ってきてるのだろう。直接の知り合いに言った方が
彼女には都合がいいじゃないか。泥酔してそんなことも分からなくなっているのだろうか。

色んな考えが頭の中を駆け巡る。

「大丈夫?意識まだしっかりしてる?自分が今いる駅の名前ちゃんとわかる?」

彼女に警戒されないよう、迎えに行くとは言わずに駅名だけでも聞き出そうと試みた。
すぐにまた震えだす携帯。しかし画面を見るとメールの着信ではなく、番号非通知の
電話の着信だった。

146 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 22:41:56 ID:DV3GgTKn
電話をとると、やはり相手は彼女だった。ろれつが回っておらず、かなり酔っていることが
すぐにでもわかる。何故俺の携帯の番号を知っているのか不思議だったが、そんなことを
聞きだせる状態ではなかった。

ひどい酔い方で質問をしてもまともな返事が返ってこない。携帯から酒の匂いが伝わって
きそうな勢いだ。

10数分の電話でのやり取りの末、ようやく彼女から駅名と今いる場所の目印を聞き出した。
駅は車なら30分くらいで付く距離の場所にあり、彼女はその駅前のコンビニの前にいるそうだ。

俺は迎えにいくからと彼女に告げ、絶対にコンビニの前から動かないよう彼女に繰り返し伝えた。
急いで着替えて家を飛び出し、最寄り駅にダッシュ。駅前でタクシーを拾い、彼女のいる駅へと
向かった。

途中、ちゃんとコンビニの前にいるか確認のメールを何度か出した。メール全てには返信が
ないものの、駅につくまでの間、2回だけ「ちゃんとコンビニにいるよ」と返事があった。

純粋に心配する気持ちと、やっと彼女に会えることへの期待と不安。そして何故彼女が俺の
電話番号を知っていたのかという疑問。色んな考えが頭のなかを交錯し、タクシーはようやく
目的の駅へと着いた。俺の心臓は大袈裟ではなく、ほんとうに口から飛び出しそうなくらい
早鐘を打っていた。

176 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 22:57:36 ID:DV3GgTKn
タクシーを目印のコンビニの前に止め、俺は運転手にここで待っててもらえるよう
頼んだ。急いで降りて彼女を探す。コンビニの外。いない。コンビニの中に入り
一周する。いない。

半分パニックになった俺は彼女へメールを出す。だが返事も来ない。
外へ出て、近所を探そうと走り出そうとしたとき、タバコの自販機に寄りかかって
眠っている彼女をようやく発見した。

待ちに待ったご対面。とんでもなく酒臭い俺のお姫様。

「おい、美紀。迎えに来たよ。分かる?」
「うん・・・・・わかるよ・・・・・ありがと・・・・」

とりあえず彼女にここで待つように言い、俺はコンビニの中で2リットルのミネラル
ウォーターを買い、彼女を引きずるようにして一緒にタクシーへと乗り込んだ。

水を買ったのは彼女の水分補給と、タクシーで吐きそうになった場合の袋の確保の
ためだった。

タクシーの中でも彼女は即座に寝てしまい、自宅の場所を聞き出すことはとても
できなかった。『仕方なく』俺は運転手に自分のアパートへと向かってもらった。

初めての彼女との対面。眠って肩に寄りかかってくる彼女。お酒の匂いがひどかった
けれど、俺にとってはようやく彼女と出会えた今も胸に残る素敵なワンシーン。

303 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 08:21:49 ID:ZqihJCh5
結局タクシーの中では彼女は静かに眠り続け、車の中で吐くのではないかという
俺の心配は杞憂に終わり、30分ほどたって車はアパートの前へと着いた。

運転手に手伝ってもらって、眠ったまま起きない彼女をおんぶ。アパートの2階に
ある自分の部屋へと彼女を連れて行った。ベッドの上に彼女を下ろし、声をかける。

「美紀。聞こえる?大丈夫?とりあえず俺の部屋に連れてきたけど、いい?」

そのまま寝かしても良かったのだが、一応今晩ウチに泊まることについて、
了承を得ておきたかった。だって手の早い奴なんて思われたくないでしょ?

美紀は大丈夫、分かる、となんとか返事をし、水が飲みたいと言ってきた。
俺はさっき買ったミネラルウォーターをコップに注ぎ彼女へ渡した。

ぐいぐいと水を喉に流し込む彼女。実物がそこにいるという存在感。
目の前にある姿。水を飲む音。そしてだんだんと慣れてきたお酒の匂い。
携帯のメールとは圧倒的に違う知覚神経に伝わる情報量の差。

やっと彼女と出会えたことに喜びつつも、俺は彼女とのメールでの2ヶ月間に
少しずつ自信をなくしていた。所詮メールはメール。今こうしてやっと会えた彼女は、
2ヶ月あまりの間メールを重ねたとは言え、やはり初対面も同然なのだ。
308 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 08:44:08 ID:ZqihJCh5
水を飲み終わると彼女はトイレに行きたいと言い、よろよろと頼りない歩き方で
トイレへと行った。戻ってきた彼女に俺はベッドで寝るように促し、自分はタオルケットと
毛布を床に敷いて寝ることにした。

電気を消すと彼女はあっという間に寝息をたて始め、その音を聞きながら俺はなんだか
眠るのがもったいなく感じていた。ずっと待っていた彼女との時間の共有。同じ部屋で
同じ音を聞き、同じ空気を吸う。この素晴らしい時を少しでも長く味わっていたかった。


次の朝、いつものように6時に目覚まし時計が鳴る。今日は平日。昨日はなんだかんだで
眠りについたのは3時過ぎ。さすがに寝不足。それに彼女のこともある。

俺は目覚まし時計を8時半にセットしなおし、もう一度短い睡眠をとった。再び目覚まし
時計が鳴ると、俺は会社に電話をし、体調が悪いと伝え休みを貰った。めったにしない
ズル休み。

電話の音で彼女が目を覚ます。気分が悪そうなので水を勧める。水を飲み、再びトイレに
行く彼女。戻ってきてから胃薬はないかと聞いてくる。胃薬を飲むと彼女は礼をいい、もう少し
休ませて欲しいと言って再びベッドで眠り始めた。

俺の方はと言えば、多少寝不足ではあったのだけど、現在自分が置かれている状況に興奮し
寝ようと思っても眠ることができなかった。とはいっても別に妙なことをたくらんでいたわけでは
ないよ?女性には紳士的なんです、ボク。

310 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 09:03:22 ID:ZqihJCh5
俺は彼女が起きた時に備えコンビニへ向かった。だいぶ胃もたれをしているようなので
彼女にはおかゆのレトルトを購入。自炊は全くしないので、ウチには米の買い置きすら
ないんです。俺は朝食のサンドイッチと昼か夜に食べる予定で弁当をひとつ購入。

家に帰り、彼女が起きるまでひたすら待つ。本を読んだりウトウトしたり。起きたら
何を話そうかと考え、なるべく長くこの部屋に居て欲しいと思った。そして出来れば
今のこの関係を打破したかった。メールだけの関係から一歩前進したかった。

そんな関係になれるかどうか、それは彼女が起きた後にかかっていた。


彼女が起きたのは13時を過ぎた頃。酔っ払って迷惑をかけたことに罰の悪そうな
顔をする彼女。そんな顔をしないで欲しい。俺は君がこうして来てくれたことが
本当に嬉しくてしょうがないんだから。

彼女はもう一度胃薬を飲み、俺は彼女におかゆを勧めた。俺はさっき買った
弁当を温める。初めての彼女との食事。でもなぜか会話は弾まない。
まだ彼女は二日酔いだから、きっと元気がないのだろうと、なるべく悪い方向には
考えないようにした。

それでも俺はこの沈黙の時間に耐え切れず、何か話そうと空回りするうちに、
昨日から気になっていたことをつい聞いてしまった。

「ねえ、なんで俺の電話番号知ってたの?」

314 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 09:21:53 ID:ZqihJCh5
彼女は下を向き、長い沈黙が続いた。そして鈍感な俺はこのときようやく気づいたんだ。
彼女はお金をとってメールのやりとりをする今までの行為に罪悪感を感じていたのだと。

そして彼女はゆっくりと話し始めた。尋問された容疑者が自白をするように。
そんなつもりはなかったんだ。感謝こそすれ、問い詰めるつもりなんて全くなかったのに。

彼女が話したのはだいたいこんな内容だった。

自分はフリーターで事情があって少しお金に困っていたこと。
アルバイトをしながらお金を稼ぐ方法として、有料のメル友を思いついたこと。
偶然彼女の働く店に俺が来て、ポイントカードを作ったので、そこからメルアドと
電話番号を調べたこと。

なんで俺を選んだのかと尋ねると、彼女は自分と同じで寂しそうだったからだと答えた。

彼女の自分を責めるような話し方が悲しかった。俺は何も怒ってはいないし、むしろ感謝
しているのに。俺は一生懸命に彼女にそのことを伝えた。君とのメールのやり取りが、
どれだけ楽しかったか。寂しかった心がどれだけ癒されたか。灰色のモノクロームだった
毎日が、彼女のおかげで鮮やかに色づいたことを。

彼女はただ「ありがとう」と言い、罰の悪そうな表情は最後まで消えることはなかった。

330 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/30(日) 09:57:48 ID:ZqihJCh5
気まずい沈黙が続き、彼女は「ごちそうさま」と言った。そして酔って迷惑をかけた
ことを改めて詫び、もう帰ると言った。俺は駅まで送ると申し出て、ふたりでアパートを
でて駅へ向かった。

重い沈黙は歩いている間もずっと続き、駅まではあっという間に着いてしまうのだった。
通勤の時は毎日あんなに長く感じられるのにね。

駅の改札まで着くと、俺は嫌な予感が抑えられず、彼女に尋ねた。

「ねえ、メールは続けるんだよね?」

彼女はしばらく黙ったままで、「少し考えさせて」と言い切符を買いに行った。
切符を買って戻ってくる彼女。なかなかサヨナラを切り出せない二人。

やがて電車の到着を告げるアナウンスが響き、彼女は「じゃあ行くね」と言った。
黙ってうなずく俺に彼女はそっと近づきキスをした。人目は全く気にならなかった。
「バイバイ」と言って彼女は改札に吸い込まれ、電車は走り去っていった。

俺は嫌な予感に押しつぶされそうになっていて、キスしたことを全く喜べなかった。
むしろそのキスが嫌な予感にとどめを刺していて、重い足取りでアパートへと戻った。

「考えさせて」と言われてしまい、メールが出せなくなってしまった俺は、何度も携帯を
チェックしながらその日を終えた。すぐに返事が来るだろうという淡い期待は打ち砕かれ
彼女からのメールは次の日になっても、その次の日になっても中々来ないのであった。



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