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79 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 16:44:10 ID:DV3GgTKn
こうしてメールを媒介とした俺と美紀の擬似恋愛生活は2ヶ月目を向けた。
実際に会ったことがないことと、彼女の素性が分かるようなことには触れてはいけない。
この2点を除けば、俺と彼女のやりとりは本当の恋人同士と何も変わらなかった。

まさかお金を払ってる相手と喧嘩まですることになるなんて。
ちょっとこのオプションはリアリティを追求しすぎだと思わない?

彼女から怒りのメールが届いたのは、お金を振り込んだ翌日の昼だった。

「なんか3万円振り込まれてるけど何で?」

俺は顔写真を送ってくれたお礼だと言ったが、それが彼女を怒らせたらしい。
写真を送ってくれたのは俺を喜ばそうとした彼女なりの善意であって、それに
対してお金を払われたことが彼女には不愉快だったのだ。

俺は彼女がこの契約関係をやめると言い出すのではないかとハラハラした。
恋人に別れ話を切り出されるのではないかと心配するかのように。
こんなサービスいりませんから。

81 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 16:55:32 ID:DV3GgTKn
俺の謝罪メールに対して、彼女は返事をくれなくなり、ハラハラしながら
その日は仕事を終え、家路についた。帰りの電車の中と、家についてからと
俺は謝罪のメールを出し続け、彼女からのメールを待ち続けた。

その日、0時を過ぎた頃、ようやく彼女から返事が来た。

感謝の気持ちを表すのに、俺たちの関係上、お金という手段をとってしまったのは
仕方がないじゃないかという俺の主張を、向こうはある程度納得してくれたらしい。

ただ、感謝の気持ちを表すのにお金を使うというのはもう止めてくれと彼女は
言ってきた。俺は彼女の要求を全面的に受け入れ、傷つけたことを再度謝罪した。

これに対し、彼女が「仲直りのしるし」と「罰ゲーム」として要求してきたのは
俺の顔がはっきりと写った写メールだった。その夜、俺は風呂上りの頭を
真夜中にセットしなおし、できるだけ男前に写るよう、夜中の2時まで自分の携帯と
格闘することとなった。

84 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 17:09:16 ID:DV3GgTKn
この事件がきっかけで、俺の彼女に対する想いはより一層深まった。
通勤電車、会社の喫煙所、家のベッドの中。俺は彼女の写真を始終眺め、
ため息をついては胸の苦しさを感じるのだった。

あとはこの事件のお陰で、彼女は「怒る」という感情を示すほど、俺との
関係をちゃんとした人間関係として認めてくれているということがわかり、
俺はちょっとだけ彼女との未来に希望を抱いたりしていた。

だってそうでしょ?本当にお金の為だけにメールのやりとりをしていたのなら、
お金を多く振り込まれても怒るはずがない。そんな風に俺は彼女との
今後に期待感を膨らませ、この頃から彼女の気を引くように色々と小細工を
しはじめた。

メールだけの関係でも色々と方法はあるんだよ?メールの返事を少し
遅らせてみたり、たまにはそっけなく、ちょっと冷たい返事をしてみたり。
そしてその後は、うんと優しく「愛してる」と伝えたり、感謝の気持ちを綴ったり。

89 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 17:20:44 ID:DV3GgTKn
でも一番努力したのは、彼女の聞き手にまわろうとしたこと。これまでは
一方的に自分の話したいことを話し、彼女はひたすら聞き役にまわり、
俺を慰め、生活に潤いを与えてくれていた。

今後はそうではなく、自分も彼女のよい聞き手になれるよう、自分なりに
努力し始めた。一方的に彼女を必要としてる関係ではなく、彼女にも
自分を必要として欲しかったのだ。月2万のお小遣い以外にもね。

メールの件でも分かるように、この頃には俺と彼女の間にある程度の
信頼関係がなりたっていた。だから彼女に自分の話をさせるよう仕向ける
ことはそんなに難しくはなかった。

もちろん最初から彼女がペラペラと自分のことを書いてくるはずもなく、
俺はメールの中に少しずつ質問を織り交ぜ、少しずつ彼女の周りの壁を
とりはらっていった。

素性が知れるようなことはいつまでたっても教えてくれないものの、昔の
思い出話、最近面白かったテレビ、その日の予定、楽しかったこと、
頭に来た事など、少しずつ彼女は自分から話すようになっていった。

俺はそれに対し、彼女の中で世界一よい聞き手になれるよう、熱心に
耳を傾け、練りに練った返信メールを彼女に対して送り続けた。

106 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 21:03:35 ID:DV3GgTKn
そうして彼女の話を聞くうちに、彼女のことが少しずつわかっていった。
3人兄弟の一番上であること。両親が厳しいこと。今は一人暮らしであること。
仲が良かったけど喧嘩して連絡をとってない友達の話や、昔の恋愛の話。

ひとつひとつ、それぞれの話を聞き、それに対して意見を交換していく内に
少なくとも俺は、お互いを段々と深く理解して行っているのだと感じていた。
同じ空間を共有しない、電波とケーブルで届く文字だけのつながりだけどね。

こんな関係はやっぱり希薄な人間関係だと思うかい?
直接会って交流しなければ、やはり深い人間関係にはなれないのかな?

自分でもそういう限界はずっと感じていたんだ。でも俺にはひとつだけ希望が
あった。それは彼女の銀行口座のある支店が、結構俺の家と近いのだ。
とは言っても電車で20〜30分と言ったところだけどね。

一応写真でお互いの顔は知っている。どこかで偶然に出会うのではないかと
気が付けば俺は外出時には無意識の内に彼女を探すのが習慣になっていた。
でもこれだけ人口の多い東京で、そんな偶然は宝くじに当たるよりも確率は
少ないんだろうけどね。銀行口座だって本人のものか分からないし、その近所に
住んでいるとも限らない。でもこれが唯一の慰めだったんだ。

こんな風にして、毎日会社と家を往復し、その間、彼女と一日中メールをやりとりし、
通勤時間にはそのメールの相手との偶然の出会いを求める生活が続いた。

彼女と時間と空間を共有したいという欲求は日増しに強くなっていった。

108 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 21:16:24 ID:DV3GgTKn
ある日俺は彼女にデートを申し込んだ。一緒に映画を観ようって。

もちろん実際に会ってのデートは断られるに決まっているので、
そこはひとつ工夫をした。ふたりで同じDVDを借りて、週末の同じ
時間に一緒にその映画を観るのだ。

こんなのがデートだって言えないのはわかっている。それでも彼女と
少しでもいいから時間を共有する感覚が欲しいという願いから俺は
こんなことを考え付いたのだった。まあ元ネタは昔雑誌で読んだ遠距離
恋愛のカップルの記事なんだけどね。

俺のバーチャルデートのオファーは彼女に承諾され、ある週の土曜日に
同じ時間にそれぞれ別のレンタルビデオ店へと足を運んだ。あらかじめ
タイトルを決めておいて、それぞれ別々に借りてもよかったのだが、新作は
全部貸し出し中になってる心配があったし、旧作は置いてある店と置いて
ない店があるだろ?

だから同じ時間にビデオ屋に行って、メールで相談しながらタイトルを決める
ことにしたんだ。偶然同じビデオやでばったりと出会う。そんな期待をしていた
のは彼女には内緒。実際そんな偶然は起こらなかったけどね。

110 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 21:33:28 ID:DV3GgTKn
新作は案の定、全部貸し出し中のものが多かった。俺の方では借りれても
向こうが借りれなかったり、その逆だったりしてあえなく断念。
色々相談の末、結局借りたのは去年あたりにリリースされた、韓国の
純愛映画。恋愛モノに誘導したのはもちろん俺。だって初デートの
映画ってそういうものでしょ?

帰りにコンビニでスナックと飲み物を買って準備完了。彼女はじゃがりこを
買ったみたい。もし本当に一緒に映画を観ることがあったら、じゃがりこは
勘弁して欲しい。だってあれ、食べる時の音が大きいし。

14時ちょうどに映画をスタート。話には聞いていたけど、韓国の映画は本当に
話がゴテゴテしすぎてる。この映画にしても、ヒロインの昔の恋人に主人公が
そっくりだったり、別れた二人がお見合いのようなものでまた偶然に再会したり。

それでも話自体は爽やかな純愛モノで、セレクションはまずまずだった。
観終わった後のメールも、結構盛り上がったしね。それでも俺の物足りなさは
解消されるはずもなかった。同じ時間に同じものを観る。それは確かに嬉しいけれど
俺は映画のそれぞれのシーンで彼女がどんな表情をするのかが見てみたかった。

大体、肝心の映画の最中に、メールは出せないからね。

延々と続くないものねだりのループ。クモの糸みたいに絡み付いて、彼女を想う
胸の苦しさは日を追うごとにますますひどくなるのだった。

119 : ◆qOJOlxW/1U :2005/10/29(土) 22:09:50 ID:DV3GgTKn
こんな風にして、日々、彼女への想いを募らせながら、時間はあっという間に
過ぎていった。そして3回目の契約更新と料金の振込みが終わり、それから
一週間が経った頃、運命の日は突然やってきたんだ。

その日は日曜日で久しぶりの晴れの日だった。俺は洗濯や掃除をしながら
ダラダラとテレビを見たりしながら過ごしていた。

夕方ごろに彼女からメール。

「今日は飲み会だから夜はメールできないかも」

がっかりしたけど仕方がない。この2ヶ月ちょっとの間、たまにこういうことがあった。
彼女にも忙しい時間は当然あるわけで、異議の申し立てなんてできるはずがない。

「楽しんでおいで」とちょっと大人ぶった態度をとって、俺は寂しい週末の午後を
過ごすことになった。

この頃、彼女とのメールの内容は一部のNGを除けばかなり深い話ができる位に
なっていた。それでも彼女に彼氏や好きな人がいるのかなんて聞けるはずもない。
NGのど真ん中だし、仮に彼氏がいるなんて言われた日には、この擬似恋愛は
成り立たなくなっちゃうだろ?

彼氏がいたら、違う男とこんなにメールができるはずがないと、希望的観測で自分を
慰めてはいたけど、もしかしたら、こんなことを許す心の広い彼氏だっているかも知れない。

どこか男の家に泊まりにいってるのかもしれない。今日は合コンなんじゃないか。
そんな疑念が浮かぶたびに、また俺の胸は締め付けられた。

なるべく考えないように頭の中からそうした考えを振り払い、寂しくコンビニ弁当を食べて
週末の夜をひとり悶々と過ごした。


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