福 音

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12 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 13:41:46 ID:ctc+tw8b
翌日、三嶋とはギクシャクするかと思ったが、三嶋は全く
意に介していない様子で普通に話しかけてきた。
そんな三嶋に僕が普通に話せるはずもなく、必要最低限の返事しかせず、
それが僕と三嶋の会話のパターンとして定着した。

高校に入って僕の気持ちは荒れることが多くなった。
遅めの思春期というべきか、長めの思春期というべきか、親も学校も教師も
自分を取り巻く世界に対する嫌悪感はますます強くなっていった。

そうした純粋さを求める気持ちとは裏腹に、自分も段々と汚れていく気がして
日々をイライラと、特に何をするわけでもなく消費していった。

高校で出来た友人は3人で、昼休みはいつもそいつらと食べて、近くの公園で
タバコを吸う。当時は「午後の紅茶」が人気でいつもミルクティーを飲みながら
タバコを吸うのがお気に入りだった。

5月半ばには新しい彼女ができた。
同じ学年の違うクラスの子。

タバコ友達とつるんでいる内に自然と知り合い仲良くなった。
たまたま二人で帰っているときに「付き合ってみない?」と言ったらOKされた。

20 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 17:35:36 ID:ctc+tw8b
女の子の名前は若林といった。
今も使うかどうかは知らないが、当時で言うところの「高校デビュー」。
カラーリングしたての髪、短くつめたスカート、ルーズソックス、ローファー。
当時の女子高生の最先端ファッション。

何もしなくてもよく喋るので、無口な僕には丁度よかった。
別段、会話のない時間が苦手ではないが、女性という生き物は元来、
沈黙を気まずいと感じる生き物らしい。

よく喋る若林に適当な相槌を打ちながら、僕らは登下校を一緒にするようになり、
夜の公園でキスをしたり、親の留守に家でセックスをした。

恋愛の噂はいつの時代も広まるのが速い。
とりわけ女性のネットワークには驚嘆すべきものがある。

優等生の三嶋もこれに関しては例外ではなく、6月の月次で開かれる定例の委員会で、
僕と若林のことを聞いてきた。

「ねえ、若林さんと付き合ってるって本当?」
「本当。」
「いいなあ、ねえ、一緒にどんなところに言ったりするの?」
「・・・・・・・・・・・。」
「そのぐらい教えてくれもいいんじゃないかな?」
「あんたに話す必要ないから。」
「・・・・・・・・そう。ごめんね、なんか嫌なこと聞いちゃって。」

三嶋はどこまでも明るく、どんなに冷たくしてもめげずに話しかけてきた。

21 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 17:57:57 ID:ctc+tw8b
若林との交際は順調だった。少なくとも僕はそう思っていた。
当時は今のように携帯もない。一部高校生ではポケベルで
連絡を取るのが流行りはじめていたが、僕らはそんなものは
持っていなかった。

従って今と違って直接会う以外には、連絡の手段は手紙か
家の電話ぐらい。家族が出ると気まずいから、という理由で
僕はほとんど若林に電話をしなかった。

今のように携帯が普及していたらメールや携帯への電話で、
あっという間に当時の僕は辟易して別れていただろう。

やがて夏がやってきて花火の季節。
僕は若林のリクエストに答えて花火にでかけた。

花火そのものは好きだった。
でもあの人混みが嫌いだった。

特に駅の改札は、いつの時代も切符を買うための行列で
構内にはまったく風が通らず、人が発する熱と汗で極端に
不快な空間を生み出す。

そんなわけで、いつも以上にテンションが低く無口な僕は、
出店で焼きそばなどを買って食べながら、浴衣姿の若林と
花火を見ていた。

26 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 19:31:15 ID:ctc+tw8b
お互い高校一年生。ふたりともカップルで花火を見に行くのは
初めて。行きの内に帰りの切符を買っておいたほうがいいこと
すら知らない。

当然、いい場所が取れるはずも無く、露店と公衆トイレが近くに
ある、ひどく色気のない場所で花火を見ることになった。

「奇麗だね」なんてお約束の会話はあったものの、その日の
若林は元気がなく、珍しく言葉数が少ない。

機嫌でも悪いのだろうと別段気にも留めず、俺は花火を見る。
やがて花火は終わり、帰りの電車の混雑をさけるため、僕と
若林はその辺りの露店を見て回ったりして時間を潰し、1時間
程度経ったところで駅へと向かった。

途中、駅へと向かう上り坂で、ふと気がつくと若林がいないことに
気づいた。周囲を見渡すと後ろで立ち尽くす若林がいた。

「早くいこうぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・・。」

様子がおかしい事に気がつき、引き返して若林のそばによる。
若林は肩を震わせて静かに涙を流していた。

27 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 19:39:26 ID:ctc+tw8b
「どうしたんだよ、突然。」
「もうダメ・・・・・・歩けない・・・・・・・。」
「靴擦れでもしたのか?」
「違う!」
「・・・・・・・・・・。」
「そうじゃなくて・・・・・・・もう倉木君とは一緒に歩いて行けない・・・・・・。」

ああなんだ、別れ話か。

心の中でそうつぶやいた。

「私、頑張ったんだよ。一生懸命、私のこと見てもらおうと思って。でも倉木君、
いつも私のこと見てくれてない!」
「見てたよ。」
「嘘!髪型変えたって、新しい服買ったって、今日だって浴衣着てきても、
何も言ってくれない!・・・・・・・・もう・・・・・・頑張れない。」

若林が何か苦しんでることは理解できた。でもその時の僕には、何が苦しいのか
さっぱり理解することができず、何も共感してあげることができなかった。

「じゃあ別れよっか。」
「・・・・・・・・・・・・・・うん。」

泣いている若林をその場に置き去りにして、駅の方へとひとりで歩き出した。
後ろの方で「馬鹿あぁ!」と叫ぶ大きな声がした。きっと自分は人としての
何かが欠けているのかも知れない。そう思いながら蒸し暑い夜の道を歩いて行った。

28 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 19:56:58 ID:ctc+tw8b
若林と別れたはいいものの、まだまだ続く夏休み。
部活も入っていない僕にはタバコ友達と時々遊ぶ以外は
予定なんてない。バイトは家で禁止されていたし、予備校に
行くにはまだ早かった。

家でダラダラとテレビをみたり、スーパーファミコンで今更
昔のFFを引っ張りだしてみたり、時々届くZ会の教材を
やったり、時間を持て余していた。

夏休みも後半に差し掛かった頃、昼休みのタバコ友達の
ひとりから電話があった。2年生の先輩と仲良くなって、
今度みんなで一緒に遊びにいく約束になったらしい。

時間を持て余していた僕は即座にOKし、3日後のその日を
待った。

待ち合わせは隣の駅前の広場。全員集まったところで
ファミレスに移動。ご飯を食べながら談笑する。

たかだか一学年しか違わないのに、何故か大人の香りが
するような気がした。たぶんただの気のせいだろうが。

4対4で合計8人だったが、その中でひとりだけ気に入った
子がいた。ショートカットの八重歯の子。少しだけそばかすが
あったけど、それも可愛く見えた。でも正直に言えば、
番気に入ったのは胸が大きかったことだった。

29 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/13(金) 20:12:07 ID:ctc+tw8b
その日はそのままカラオケに行って解散。
僕が気に入った先輩は加納さんと言い、解散間際に

「今度ふたりで遊びましょうよ。」

と誘った。OKをもらったので翌日の夜、名簿を見て
先輩の家に電話をかける。また同じ駅で待ち合わせの
約束をして電話を切った。

加納先輩とは夏休みの間に2回遊んだ。
相手が年上ということもあったのだろうか、生まれて
初めて積極的に女性を口説いた。

若林の時とは違い、親の冷たい視線を受けながらマメに
電話をしたりして、2学期が始まってすぐの頃に僕の方から
告白して付き合い始めた。

兄弟もなく、両親との人間関係も希薄だった僕には、年上の
女性との付き合いは新鮮なものだった。向こうもこちらが年下と
言うことを意識してたのだろう。幼い頃以来、初めて女性に
甘えて接した。

34 : ◆bA0TzdCLfk :2006/01/14(土) 21:18:00 ID:gb3JFuFt
加納先輩との交際は楽だった。自分が年上という意識が
向こうにあるからだろうか、デートの時も上手に僕をリード
してくれた。

処女ではない相手と付き合うのはこの時が初めてで、僕らは
付き合ってすぐに体の関係も持つようになった。

女性に対する依存心が生まれたのもこの時が初めてだった。
会いたいだとか、声が聞きたいという感情が少しずつ僕の中で
生まれてきた。それはとても新鮮な感覚で、甘く、苦しい胸の中の
旋律を僕は楽しんだ。

だが先輩との関係は2ヶ月で終った。

他に好きな人が出来たと、別れて欲しいと言われた。
別れ話が初めて辛いと感じた。
今にして思えば、初めて、人としてまともな恋愛感情を手にしかけて
いたのかも知れない。

初めて好きになりかけた女性の心変わりは、僕の心を以前よりも
乾いたものにした。芽生えかけた他人に対する愛情はあっという間に
氷結されて、心の奥底に封印された。

僕は以前よりもまして他人と深く接することを避けるようになり、人という
生き物に対する関心を失っていった。



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