福 音

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494 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/11(水) 21:58:41 ID:9EMnuOGa
高校は結局地元の公立高校へ進学した。
塾からは私立の進学校を薦められたが関心がなかった。

「家から近い」

ただそれだけの理由。
学歴社会は最終学歴である大学で人生が決まる。
高校はどうでもいいことを理解していた僕は、平日の数時間を電車の中で
無駄に過ごす気にはなれなかった。別に夢中になれるものがあったわけでも
なかったのに。

季節は春。
桜、舞い散る中での入学式。
新しい制服。
新入生。

担任の自己紹介。
クラスのオリエンテーリング。

行事や環境の変化で興奮気味のクラスメート達。
積極的にお互いを紹介しあい、友人、グループを形成していく。
相も変わらず僕はそういった事には無関心で、特に誰にも話しかけず、また話し
かけられなくても気にも留めなかった。

501 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/12(木) 14:31:27 ID:CXFy7CDk
登校日初日、最初の学級会ではクラスの委員を決める。
最初はもちろん学級委員。

クラスの担任は体育の教師で少し色黒。しかし眼鏡をかけていて
細長い顔に着やせする体型。本人が言わなければ理科の教師か
何かにしか見えないだろう。

「誰か推薦か立候補いないか?」

静まり返る教室。
昔ならいざ知らず、僕が高校生になることはすでに学級委員など
ただの雑用係としてしか認識されていなかった。

しばらくの間、教室は静寂に包まれ、ひとりの男子生徒にその沈黙は
突然破られる。

「先生、頭もいいし倉木君がいいと思います。」

突然名前を言われ、僕はギョッとして振り返った。
そこには同じ中学校だった三上がいた。
大して仲も良くないいけ好かない奴。

「倉木、推薦されてるけど、お前やらないか?」
「あまり気が進みませんね」
「そうか・・・・・他にいないか?」

誰も返事もしない。

「倉木、なんとか頼めないかな。」

クラス中の視線が自分に向いてくる。新学期早々ついてない。
断るのも面倒になり「わかりました。」と引き受ける。

502 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/12(木) 14:42:42 ID:CXFy7CDk
「じゃあ次、女子の学級委員。誰か推薦か立候補しないか?」
「はい、私やりたいです。」

物好きな女子が手を挙げて立候補した。

「他に立候補はいないか?じゃあ三嶋、お願いするよ」
「わかりました。」

三木のすぐ隣に座っている優等生風の女子だった。
何を好き好んでこんなことをやりたがるのだろう。理解に苦しむ。
まあ本人はやる気満々だし、せいぜい仕事を押し付けてやろう。
そんな風に考えながら、頬杖をつき、他の委員が決まって行くのを
黙って見ていた。

休み時間、女学級委員が早速やってくる。

「こんにちは。私、三嶋綾子。よろしくね。」
「・・・・・・・・・うん。」
「倉木君は南四中だったよね、私は一中なんだ。」
「そう。」
「テンション低いなあ。そんなにやりたくなかったの?学級委員。」
「ただの雑用係だからね。好んでやる人の気が知れないかな。」
「意外とちゃんとやると楽しいよ。みんなと仲良くできるしね。」

馴れ馴れしく話しかけてくる、一番苦手なタイプ。
その内、生徒会にでも立候補しそうだ。
放っておくといつまでも喋っていそうなので黙って席を立ち、トイレに行った。
新学期早々、ほんとうに面倒だ。

504 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/12(木) 16:30:02 ID:CXFy7CDk
当時はまだギャルなんて言葉は存在しなかった。
いや、ギャルという言葉が禁句だったと言ったほうが正確だろうか。
現在の語尾が上がる「ギャル」ではなく、語尾の下がる「ギャル」しか
なかった時代。

僕が高校生になった当時は、まだ現代のギャルにつながる「コギャル」という
言葉が誕生して間もない頃だった。
ルーズソックスがようやく流行り始め、プリクラはまだ無く、日焼けサロンに
通う女子が学校の中で数名いる程度。

公立だったため校則は緩く、髪型や日焼けなどに関してはウチの学校は
ほぼ自由だった。

僕を含む新入生達は最初こそ大人しくしていたものの、1ヶ月も経たない内に
その自由な校風になれ、徐々に髪にブリーチをかける者、金髪にする者、
ピアスの穴を空ける物などが増え行った。

三嶋綾子はそんな中でも黒髪を通し、正統派優等生を続けており、
顔もそこそこ奇麗なこともあり、一部男子には人気があったようだ。

入学して最初の週には最初の委員会が開かれ、各委員は放課後、
3年生のいる4階へと少し緊張しながら足を運び、上級生からの説明を受けた。
僕も三嶋と一緒に3-Aの教室へ行き、指定された席に着席した。

委員会は担当教師からの仕事の説明から始まり、最後に議長、副議長、書記の
選出へと議題が移った。議長、副議長は2年生の中の1クラスが担当、書記は
1年生の中から1クラスが担当すると教員からの説明。

505 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/12(木) 16:38:57 ID:CXFy7CDk
「じゃあまず2年生から。どこか議長やるクラスあるか?」

教室の中、全員が黙る。

「おい、高橋。お前やれよ。」
「マジっすか?勘弁してくださいよ〜。」
「誰もいないんだから仕方がないだろ。な?」

おそらく担当教師と仲がよいのだろう。2年生はD組が選ばれ男子が
議長を、女子が副議長をやることになった。

「次、1年生。書記やるクラスいないか?」

当然ながら再び静まり帰る教室。
だが、顔見知りの1年生と2年生がいるらしく、「お前やれよ。」などとの
会話が聞こえる。このままならそのクラスが書記担当になりそうな流れだった。

その時、僕の左隣にいた三嶋が話しかける。

「ねえ、やろうよ。」
「は?やだよ。」
「絶対に面白いって!」
「ちょっと待てよ、やるならお前一人で・・・・」
「先生!B組ですけど立候補します。」

手を挙げる三嶋。最悪だ。

「お、じゃあ書記はB組な。」

あっという間に黒板には書記B組の文字。
この女といると碌な事がないと確信した時だった。

506 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/12(木) 16:56:15 ID:CXFy7CDk
無事、担当決めが終わり、年度最初の学級委員会は終了。
僕はあきれて物を言う気にもなれず、教室を出て階段を下りた。

「ちょっと待ってよ。」

後ろから三嶋が追いかけてくる。

「なんで黙って置いていくの?」

少し頭に血が上り、階段の踊り場で立ち止まる。

「お前が役員やろうがなんだろうけど構わないけどさ、俺まで巻き込まないでもらえる?」
「・・・・・・・そんなにやりたくなかった?書記。」
「やりたくなかったね。」
「先輩とかと一緒に仕事したりできて、絶対楽しいよ?」
「お前さ!」

少し声を荒げた。
三嶋はビクッとして少し驚いた表情を見せる。

「みんなが自分と同じ価値観持ってるとか勘違いしてないか?みんながみんな、
お前みたいに能天気に笑顔振りまいて生きてるわけじゃねーんだよ!」

呆然と、そして悲しげな三嶋の顔。
そのまま三嶋をその場に置き去りにし、僕は教室のカバンを取り下校した。
帰り道、イライラが止まらなかった。

高校生活はまだ始まったばかりだというのに。



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