福 音

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481 名前: ◆bA0TzdCLfk :2006/01/10(火) 12:25:55 ID:jl8lzMjT
冬の川の冷たさで心臓が止まりそうになる。
息ができず思考は停止する。
皮膚は感覚をなくし、体は思うように動かない、動けない。

飛び込んだ衝撃で抱きしめていた君が離れていく。
なんどか掴んだ右手も力が抜けていき、握力もなくなり、
やがて川の流れに逆らえず手が離れていく。

離したくない。
離れたくない。

必死でもがいても、川の流れが強く視界はほとんどない。
君の姿は見えなくなって、水を飲み込みながらそれでも僕は君の名を叫ぶ。
全身が冷たくなり意識は遠のいてゆく。


いつもそこで目が覚める。




482 名前: ◆bA0TzdCLfk :2006/01/10(火) 12:45:08 ID:jl8lzMjT
大抵の場合は着ているものは、汗でぐっしょりとなってしまう。
季節は夏だろうと冬であろうと、全身は凍りつくように冷たくて。

そしていつも僕は泣いている。

子供の頃からいつも見る夢。
小さい頃は、ただ訳も分からず、夢で味わった苦しさと悲しさで
目が覚めてからも泣き続けた。

でも夢は年に数回、小学生になっても中学生になっても僕のことを離さない。
いつの頃からか、僕の中にある仮説が生まれる。
きっとこれは過去の記憶。
生まれるよりもずっと前の。

どうせ誰も信じやしない。
ずっとそう思って誰にも話さずにいた。

483 名前: ◆bA0TzdCLfk :2006/01/10(火) 13:55:00 ID:jl8lzMjT
子供の頃から、科学雑誌を読むのが好きだった。
頑健の科学に始まりニュートンなんかを図書室で読んだり。
テレビでは生き物地球紀行や動物関係のクイズ番組。

捨て猫を見ると放っておけなかった。
家では動物を飼うのを禁止されてたが、それでも親に頼み込み
捨て猫は二回飼ってもらった。

が、それ以降は飼ってもらえず、仕方なく元の空き地に再び猫を置く。
走り去る時の心の痛み。
今も忘れることができない。

動植物の世界が好きだった。
「好き」といっても相対的に「好き」だった。
人間が嫌いだった。

僕の子供の頃はグリコ森永事件や、幼女連続誘拐殺人事件が
新聞やテレビを賑わし、子供ながらに自分が生まれ落ちたこの世界が、
奇麗な天国ではないことを悟った。

必然的に好きな科目は理系の科目に偏り、人間嫌いで周りに打ち解けようと
しない子供になっていた。

486 名前: ◆bA0TzdCLfk :2006/01/11(水) 14:42:38 ID:9EMnuOGa
クラスの中でも友人と呼べるのは大抵一人か二人。
それも学年が変わればほとんどの場合、付き合いがなくなる。

「あなたは人に対する関心が少なすぎる」

何人の人にそう呼ばれただろう。
親や教師を始めとする大人たちにとって僕は扱い難い子供だったに違いない。

僕は人間に目を向けたくなかった。
人間の行う行為、作り出す社会、織り成す出来事、被害をこうむる動植物。
ニュース番組はほとんど観なかった。
僕にとってはあれこそが人間の業を凝縮した情報源に思われた。

それでも中学生になり、体が成長するに連れて、僕にも性的欲求という
新たな衝動が備わった。
初めての射精は中学二年の夏の夜。
うつ伏せに布団に寝ているときだった。

枕の向こうにある本を取ろうとして上半身を起こした時に、股間が布団に
押し付けられ、今まで感じたことの無い感覚を味わった。
疑問に思い、その感覚を確かめるように布団に股間を押し付ける内に
僕は初めての射精をした。

人間のカルマを憎む僕は、自分の中に新たに生まれた性欲を憎んだ。
しかしいくら拒もうとしてもこの根深い、生物にとっての根源的な欲求は
どこまでも僕を追いかけ、自慰行為をするたびに僕は自己嫌悪に苛まれた。

490 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/11(水) 20:07:54 ID:9EMnuOGa
中学校。

学生時代の中で、いや人生の中でおそらく最も人間関係が複雑になる季節。

少しませた連中は恋人を作り、人生初めての春を謳歌し、そして悩み、
興奮に包まれた毎日を楽しみ、日々愛を学び、成長していく。クラスの中でも
数組のカップルが生まれ、その大半は半年と時を待たず、泡のように消えていく。

人、そしてその営み、係わり合い、その全てに関心が薄い僕は、当然そうした
ものとは縁も無く、中学時代を過ごす。が、そうした現実とは裏腹に健全なる
我が肉体は性への欲求を高め、受験を迎える頃にはようやく自慰行為を睡眠と
同じものだと割り切るようになった。


中学三年生。

公立中学校に通うものにとっては、人生で初の関門を迎える。
まだゆとり教育などなかったその頃、世は学歴社会だ、受験戦争だと僕らの
背中に重いものを背負わせる。

受験という一発勝負の試験のシステムに僕は意味など見出せず、ますます
世の中への嫌気を募らせながら、粛々と塾へと通い勉学に勤しんだ。

元々理数系に強かったことと語学のセンスがよかったせいか、その意欲とは
裏腹に僕の成績は上がっていった。夏を迎える頃には模試で塾内一位を
何度かとるようにまでなっていた。

492 名前: ◆bA0TzdCLfk 投稿日:2006/01/11(水) 21:24:58 ID:9EMnuOGa
その夏、塾の同じクラスの女子に告白をされた。いつも自習室で
数学を聞きに来る他校の女子だった。

人に対する興味だったろうか、あるいはキスやセックスに対する興味
だったかも知れない。僕は交際を承諾し、初めての彼女を持った。
しかし当時は無自覚であったが、僕はそのころまだ恋愛感情というものを
知らなかった。

毎日のように会いたがる。

毎日のように電話で声を聞きたがる。

受験勉強の上に彼女の存在は僕に更なる負担となり、僕の彼女に対する
態度はどんどん冷たくなっていった。

彼女の方はと言えば、僕の冷たい態度に反比例するように、会う度に強く
僕を求め、秋には僕らは親の目を盗みセックスをするようになった。
が、冬が訪れ受験生達の神経が過敏になる季節、彼女は僕の元から去った。

「あなたが私を本当に好きだとは思えない」

彼女が残した台詞。
傷つけてしまった初めての拙い恋愛。今も思い出すと罪悪感で胸が痛む。



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