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- 892 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:12:00 ID:axv2WcYU
- 彼から何の音沙汰も無かった一週間ほどの間、私は見るも無残なまでに
やつれ果てていた。
(元々苦労症、貧乏性で油断するとすぐに痩せてしまう体質なのですが)
自分の行動を後悔して、彼に嫌われても仕方がないとは思っていたけれども、
実際に彼を失うかもしれないという恐怖心と向き合うと、私の心は見事なま でにボロボロになっていった。
結局、彼からの返事が来ることはなかった。
- 893 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:20:05 ID:axv2WcYU
- その代わり・・と言っては何だが、彼とのメールが途絶えてちょうど一週間後。
彼は突然私のお店にやってきた。 いつもと変わらないスーツ姿で。
でも、自信満々で余裕のあるいつもの彼とは明らかに違っていて、ちょっと 異様なまでに・・・挙動不審だった。
その日の彼の挙動不審っぷりは、今でも時々思い出す。 そして、その度に私は指摘する。
あの時のあなたの挙動不審っぷりってすごかったよね・・と。
- 895 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:25:12 ID:axv2WcYU
- その日、彼は他のお客さんや店員さんがいるのに全く見向きもしないで、
私の方にまっすぐまっすぐ向かってきた。
その雰囲気があまりにも異様だったので、周りの空気は完全に凍りついて いた。私も緊張と不安とで大混乱。
(一応弁解しておくと、普段(?)というより私といないときの彼は、 およそそんな不穏な行動を取るようにはとても思えない人。)
そして私の目の前に来て、一言だけ言った。 仕事が終わったら少しでいいから時間を下さいと。 普段からは想像もつかないような大声で。
- 899 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:33:36 ID:axv2WcYU
- 私は基本的にすぐにびっくりしたりパニックに陥ったりする人種なの
だけれども、その日は今まで生きてきた中でも一番驚きと感動に満ちた
一日だった。
用件だけを伝え、逃げるようにその場からすぐに立ち去った彼。 本当にどうしていいか全く分からずに立ち竦む私。
周りの視線を一身に集める中、私はただただ混乱し、呆然とする のみだった。
そんな私を見かねてか、たまたまその場にいた店長が私にこう 言ってくれた。 「今から30分休み時間をあげるから、好きに使いなさい・・」と。
- 900 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:37:20 ID:axv2WcYU
- その瞬間、私は走り出した。
今でもあのときの私の行動は、彼に負けず劣らず異様だったと今から思う。
東京のオフィス街のど真ん中で、横断歩道を歩いている彼にいきなり体当たり をして抱きついてしまったのだから。
- 901 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:39:48 ID:axv2WcYU
- 頭は混乱しながらも、妙に冷静に、ドラマの主人公ってきっとこんな
気持ちだったのだろうなと思いながら彼に抱きついていた私。
「今、大丈夫だから!今話してください!」 道行く人々の好奇の視線を浴びながら、私は恥も外聞をかなぐり捨て、
彼に抱きついたまま私は大声で彼に話しかけていた。
- 902 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:44:01 ID:axv2WcYU
- 彼は何かを話したそうに口をもぐもぐしていたけれども、
全く言葉の形では外に出ない。 私も彼も、完全に混乱していて、お互い何を話せばいいか
分からない状態が少しの間続いた。 でも横断歩道のど真ん中でそんな状態を続けるわけにはいかない。
信号が点滅し、赤に変わりそうだった(彼は全く信号は眼中になかった らしい)ので、私はとにかく彼の手を引っ張って、横断歩道の向こうの
ベンチの前まで彼を連れていった。
その時初めてつないだ彼の手は、とても暖かかった。
- 903 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
01:48:33 ID:axv2WcYU
- ベンチに座ってしばらくの間お互い混乱してばっかりで、無言の状態が続いた。
何か話さなくちゃ・・と思うのだけれども、言葉がそれに続かない。
そんな状態がしばらく続いた後、彼はおもむろに私に話し始めた。 いつものように冷静で、余裕のある声ではなく、少し上ずった声で。
でもいつもと変わらない優しい声で。
- 904 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:02:08 ID:axv2WcYU
- 「あなたからのメールを読んだときには本当にびっくりした。
読んだ直後は、大混乱してしまい、何と返事をすればいいのか 全く分からなかった。
すぐに返事をしても冷静な判断は出来なかったから、2,3日ゆっく り考えてみた。 びっくりもしたし、一瞬は不信感に襲われもしたけれども、
やっぱりうれしかった。 嫌われたわけではなかったことも、自分が仲良くなりたいなと
思っていた店員さんが、メル友として自分を受け入れてくれた ことも、嬉しかった。」
彼の言葉を聴いて、私はただうつむいて、うんうんと相槌を 返すだけだった。
彼はこう続けた。
- 905 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:11:41 ID:axv2WcYU
- 「僕には足りないところも沢山あるし、不安定なところもあるけれど、
あなたのことを幸せにしたいと思うし、多分、ちゃんと幸せに出来る
と思う。 本当に仕事と勉強以外は何も能がない人間だから、沢山苦労もかける
し寂しい思いもさせるかもしれないけど、それでもよかったら付き合 って欲しい。もちろん結婚を前提にして。」
私は恥ずかしいやらびっくりしたやらで、耳まで真っ赤になって、何 とか彼の気持ちに応えたいと思ったけれども、言葉が全く出てこない。
唯一出てきた言葉が、「苦労するのにも寂しいのにも慣れてます。」 今から振り返ってみても、何とも間抜けで、答えになっていない答え。
私としてはちゃんと彼の気持ちに応えたつもりだったけれども、当然 彼にしてみれば答えになっていない答え。
おろおろして、彼は私に聞いた。 「答えをはっきり聞かせてもらってないのだけれども・・いいのかな? やっぱり駄目なのかな?」
と。
- 906 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:16:22 ID:axv2WcYU
- 私は彼の言葉に頷きながら、一言
「こちらこそよろしくお願いします・・」 と小さな小さな答えを返した。
何故か彼はそれを聞いて、「ごめん」と「ありがとう」を何度も 繰り返し言っていた。
そんな彼が妙におかしくて、私は緊張していたことも忘れて思わず 笑い出してしまった。
そんな私を見て、彼はちょっとすねていたけれども、すぐに真顔に なって言った。 「僕の方こそよろしくお願いします」 と。
そして私達は初めてのキスをした。
- 907 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:24:06 ID:axv2WcYU
- 付き合って初めて分かったのだけれども、彼は本当に少し変。
いつもは堂々としているのに、私と二人でいるときは、異様な
くらいに恥ずかしがったり、わがままを言ったりする。
でも、私にはそんな彼が可愛くてたまらない。
この人がそんなに仕事も勉強も出来る人なのかなと時々思うのだけ れども、彼の同僚や勉強仲間に会って話を聞いている限りは、彼は
仕事も勉強もとても優秀な人らしい。 そんなギャップが、最近の私にとっては少し面白い。
でもやっぱり、彼のことをちゃんと理解できているのか。 これからも仲良くできるのかについては、時々少し疑問に思う ことがある。
だから私は勉強を始めた。 彼のことを理解するためには、ちゃんと彼のたどってきた道を 自分がたどってみたいなと思ったから。
と言っても、今まで特に勉強らしいこともしてこずに高卒で 働き始めた私にとっては、彼のしてきたことは完全に想像の 範囲外。
公認会計士なんて高望みはせず、簿記の勉強から少しずつ 始めている。 そんな私を彼は、不思議なものを見るような目で見ていた
けれども、彼の目は概ね私に対して好意的。 勉強することで、彼の心を少しでも理解したいのだという
私の気持ちには気づいていないのだろうなと、思う。
- 909 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:30:14 ID:axv2WcYU
- 彼は28歳で、私はまだ21歳。
結婚にはまだ2,3年早いというのが二人の共通認識。
でも、子供の名前や、老後の生活や、そんなことを今では 話している。 彼は65歳までは必死に働くけれども、65歳になったらお百姓さん
になって、晴耕雨読の生活を送りたいらしい。 それが子供の頃からの夢だったそうだ。
65歳になって、田舎に住んで、彼と二人でのんびりと畑を耕しなが ら過ごすのも楽しそうだなと私は思う。
正確に言えば、彼と一緒にいるだけで、どんなことでも楽しく感じて しまえるのだろうなと思う。
- 911 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:35:32 ID:axv2WcYU
- 昨日、彼は私の母親に挨拶に来た。
私の母親は古い人で、学歴や肩書きに滅法弱い人だから、彼には
ひたすら恐縮してばかりだった(何も取り柄が無い娘が突然京大 卒の公認会計士を連れてきたのだから当たり前かもしれない)け
れど、どうやら彼のことは気に入ってくれたみたいだった。
来週、私は彼の両親に会うことになっている。
彼に言わせれば、難儀で面倒な人たち・・らしいけれども、今の 彼にすっかり惚れこんでしまっている私にしてみれば、彼の両親
は今の彼を形成する原因となった人たち。 好きになるに決まっている。 だから何も怖いものなんてない。
私はこれからも彼と生きていきたいと思っているし、
多分そうなるのだろうなと漠然と思う。
- 912 :◆bfrlm1kjiw :2005/11/29(火)
02:41:46 ID:axv2WcYU
- 私の話はここで終わりです。
このスレを読んでくれた皆さんの周りにも、少し近寄り
がたくて隙がない人がいると思います。 でもそんな人に限って、本当は心の中に踏み込んで欲しい。 自分を大事にして欲しい。
そんな願望が強いのかな・・と最近思うようになりました。
私はそんな人達には幸せになって欲しいと思うし、出来れば
そんな本当の彼を見つけてあげて欲しいと思っています。 不器用な生き方しかできないけれども、本当は心の優しい人達 なのだから。
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